大林組は何した? リニア巡り強制捜査|日経コンストラクション
以下記事
リニア中央新幹線に関する建設工事の入札で不正があったとして、東京地検特捜部が大林組に偽計業務妨害の疑いで強制捜査に入ったことが12月9日に分かった。東京と大阪を結ぶリニアは、総工費9兆円と言われる巨大プロジェクト。2027年の先行開業を目指す東京―名古屋間では各地で工事が始まっており、捜査の行方によっては進捗に影響が出る恐れもある。
大林組は15年10月から16年11月までの間に、リニア関連でJR東海から4件の工事を受注している。現時点で、大林組が具体的にどのような不正を働いた疑いがあるのか、明らかになっていない。
大林組が受注したリニア中央新幹線関連工事
工事 受注者 契約時期
品川駅(南工区) 大林組・東亜建設工業・熊谷組JV 15年10月
名城非常口 大林組・戸田建設・ジェイアール東海建設JV 16年4月
名古屋駅(中央西工区) 大林組・ジェイアール東海建設・前田建設工業JV 16年9月
東百合丘非常口 大林組・フジタ・大本組JV 16年11月
取材などを基に日経コンストラクションが作成
入札を巡る不正と言えば談合が思い浮かぶが、今回のケースでは強制捜査に入ったのが大林組だけで、公正取引委員会の調査ではないことから、談合とは考えにくい。
談合以外の不正で近年、目立っているのが入札情報の不正入手だ。16年には国土交通省中部地方整備局の発注工事で予定価格などの非公開情報を不正に入手したとして、瀧上工業や奥村組の社員が相次いで逮捕された。これらの事件では、情報を漏洩した発注者側の職員も逮捕されている。
不透明な「見積もり方式」、契約金額も非公表
もしリニアで入札情報が漏洩していたとなれば、発注者側のJR東海の責任も問われる。例えば、16年に発覚した中日本高速道路会社の発注業務で予定価格などが漏洩していた事件では、有識者委員会の調査の結果、同社のずさんな情報管理が明らかになった。同社の社員が意図的に情報を流出させたわけでなくても、発注者としての責任は免れない。
ただし、これらの不正事件では、事前に知った情報をもとに調査基準価格などの最低ラインを割り出し、その価格ぎりぎりで札を入れるケースがほとんどだ。一方、リニアの工事では各社が最低ラインを狙うような激しい価格競争は起きていないので、事情は異なる。
大林組が受注した4件の工事では、公募あるいは指名の「競争見積もり方式」で契約相手を決めている。この方式では、まず技術提案と入札価格を総合的に評価して、優先的に協議する相手を選定。その後、具体的な工法や工期、価格などを協議したうえで契約を結ぶ。総合評価落札方式のように定量的な数値で自動的に落札者を決めるわけではないので、選定過程が不透明になりやすい。
しかも、JR各社は民間企業なので、入札に関する情報を詳細に公表していない。リニアに関する各工事の契約金額も非公表だ。
東日本、東海、西日本のJR3社は14年、入札に対して高い公平性の確保を義務付けている世界貿易機関(WTO)政府調達協定の対象から外された。3社は国の会計検査の対象にも含まれない。東日本、中日本、西日本の高速道路3社がWTOの対象で、会計検査も受けているのとは大きく異なる。
JRは民間企業とはいえ、鉄道の建設は極めて公共性の高い事業なので、透明性や公正さの確保は不可欠だ。不正の温床になってはならない。
大手建設会社は05年に「脱談合宣言」をして、信頼回復に向けて従来の「しきたり」からの決別を誓ったはずだった。それでも、入札を巡る不正は一向に後を絶たない。
大手が関わる最近の不正疑惑としては、東京外かく環状道路(外環道)の地中拡幅部の工事がある。発注者の東日本と中日本の両高速道路会社は今年9月、談合の疑いが払拭できないとして契約手続きを中止した。
20年の東京五輪に向けた工事などもあり、しばらくは大型プロジェクトが続くと活気づいている建設業界。最近の相次ぐ不正疑惑は、こうした動きに水を差すものだ。
捜査の進展によっては、新たな不正があぶり出され、他社に飛び火する可能性もゼロではない。10月には、リニアで初となる大深度地下トンネル工事の発注手続きが始まっている。こうした大型案件への影響が懸念される。