イトウの産卵床、ニジマスが侵食 根室管内・風蓮川水系、小石ばかりの川底で競合−北海道新聞[道東]
イトウの産卵床、ニジマスが侵食 根室管内・風蓮川水系、小石ばかりの川底で競合
(02/14 16:00)
【釧路】根室管内の風蓮川水系で、絶滅危惧種イトウの産卵床が、北米などが原産の外来魚ニジマスの産卵行動で掘り返されるケースが3割前後に達することが、釧路市立博物館の野本和宏学芸員(34)の調査で分かった。イトウの減少は牧草地開発や河川の直線化などで生息環境が悪化したことが主な原因とみられてきたが、残された貴重な産卵適地もニジマスとの競合で脅かされている場合があることが明らかになった。
イトウは、環境省のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)で「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」とされる絶滅危惧種2B類。牧草地開発による土砂流入、砂防ダム建設、河川改修による環境悪化などが原因とされる。道内には親魚が5千匹前後いると推定されている。
野本学芸員は、北大大学院環境科学院(札幌)在学中の2006〜08年の3年間、根室管内の風蓮川水系の河川でイトウの産卵床を調査。イトウの産卵床がニジマスの産卵行動によって掘り返されることを論文にまとめ、2010年に淡水魚の生態に関する主要誌「エコロジー・オブ・フレッシュウオーターフィッシュ」に掲載された。
研究によると、イトウは4〜6月、河川上流の浅瀬の小石(直径2〜3センチ)ばかりの川底を掘り返して産卵する。卵は5月ごろふ化し、小石の間でじっとしているが、6月下旬に卵のうがなくなるころ体長3センチほどの稚魚として産卵床から離れ、物陰に身を隠しながら成長する。
ニジマスも4〜6月にイトウと同じような場所を掘り返して産卵する。
根室管内は火山灰質の地域が多く、イトウやニジマスの産卵に適した小石ばかりの川底は少ない。このためイトウやニジマスは同じ場所に産卵しがちで、研究時には、前日にイトウが産卵した場所を次の日に別のイトウやニジマスが産卵のため掘り返してしまうこともあったという。
研究では、産卵床がイトウのものかニジマスのものか見分けるため、川岸から親魚の産卵行動を観察したほか、産卵床から卵のサンプルを採取して微妙な大きさの違いや遺伝子解析などによって調べた。
2006年の場合、イトウの産卵床15カ所のうち、33%にあたる5カ所がニジマスによって掘り返された。07には20カ所中6カ所(30%)、08年は22カ所中5カ所(23%)がニジマスによって掘り返された。イトウの産卵床が後から来たイトウによって掘り返されるケースも年間0〜2件あった。
一方、ニジマスの産卵床(85〜93カ所)が後から来たニジマスの産卵行動によって掘り返される例も12〜20件確認された。ニジマスの産卵床がイトウに掘り返される例も4〜5件あった。
野本学芸員は、ニジマスがイトウの産卵床を狙って掘るわけではなく、ニジマスの生息数がイトウに比べて多いため、イトウの産卵床をニジマスが掘り返す例が目立ったとみている。
野本学芸員によると、ニジマスの影響は、イトウの産卵床が掘り返されるだけではない。産卵床を離れて水生昆虫などの餌を食べるようになった稚魚は、ニジマスの方がイトウより動きが活発で成長が早く、競争に勝つという。野本学芸員は「イトウへの悪影響を減らすため、イトウの減っている水域ではニジマスは放流すべきでない」と指摘している。
ニジマス 北米やカムチャツカ半島が原産で、食用や釣り目的で日本を含む約100カ国に導入された。しかし、在来種を駆逐するなど悪影響を及ぼすとして、国際自然保護連合(IUCN)は「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定している。道内では、ほぼ全域で分布が確認されている。(村岡健一)