大量生産が短期間で可能に?植物の力で新型コロナのワクチン開発 | 毎日新聞





知っている方が出ていたので備忘録
早く実用化されることを願っています。

以下記事

 植物を育てて新型コロナウイルスに対抗する――世界初のワクチンが昨年12月、カナダで承認申請された。ウイルスに似た粒子を植物に作らせ、収穫した植物から抽出して抗原とする。短期間での大量生産、冷蔵輸送が可能になると期待される。その仕組みに迫った。

 温室に茂る緑の葉。収穫する人が白衣姿でも、ここが「ワクチン製造工場」とは考えづらいかもしれない。植物でヒト用ワクチンを作る研究開発を、田辺三菱製薬の子会社メディカゴ(カナダ)が進めている。実用化すれば世界初だ。同社の新型コロナワクチンは、昨年世界6カ国で最終的な臨床試験が終了し、71%の有効性が得られたと発表された。カナダでは12月に承認申請し、今年度内の供給開始を目指す。日本でも臨床試験を実施中だ。今春にも厚生労働省に承認申請し、2022年度中の実用化を目指している。

 ワクチンは感染症への免疫を得るために病原体やその一部を接種するもので、さまざまな種類がある。新型コロナの流行で初めて実用化された「メッセンジャー(m)RNAワクチン」は、ウイルスの設計図である遺伝情報のmRNAを投与するもので、それに基づいて体内で作られたたんぱく質が、免疫を作り出すための抗原になる。植物由来ワクチンは、遺伝子操作した生物によって病原体と大きさや外部構造がそっくりな「ウイルス様粒子」(VLP)を作り、抗原として投与する「VLPワクチン」の一種だ。これまでワクチン製造のためのウイルス培養やたんぱく質生成には、鶏卵や大腸菌、昆虫の細胞などが用いられてきた。これを植物に担わせようというのだ。

冷蔵で保管 扱いやすく


 ウイルスの基本構造は、DNAやRNAといった遺伝情報をたんぱく質の殻が覆っている。新型コロナやインフルエンザのウイルスでは、外側にエンベロープという脂質膜があり、突起状のスパイクたんぱく質が突き出している。VLPはウイルスと大きさや外部構造がほぼ同じで、ワクチン抗原として高い有効性が期待できる。一方で内部に遺伝子を持たないため、接種後に体内でウイルスが増殖する心配がない。既に実用化された、子宮頸(けい)がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)のVLPワクチンは、昆虫細胞や酵母を利用して作っている。

 メディカゴ社が植物でVLPを作る仕組みはこうだ。成長が早いタバコ属の一種「ベンサミアナタバコ」に、新型コロナのスパイクたんぱく質の遺伝情報を導入して一過性の遺伝子操作をする。すると、遺伝情報は葉の細胞内で翻訳されてたんぱく質が作られ、VLPとなって蓄積される。約1週間培養した後に葉を収穫し、抽出・精製するとワクチンのできあがりだ。大規模植物工場で栽培するため短期間に大量生産でき、冷蔵(2〜8度)状態で保管や輸送をすることもできる。超低温での冷凍保存が必要なmRNAワクチンと比べて扱いやすいのが利点だ。
「食べて予防」実現も

 植物に有用たんぱく質を作らせて医薬品などにする研究は、日本でもいろいろと進められている。

植物でワクチンを作る


 筑波大の三浦謙治教授らのグループは、遺伝子操作の方法を改良し、植物でのたんぱく質発現量として世界トップレベルを誇る「つくばシステム」を確立。21年に特許を取得した。ベンサミアナタバコを用いた場合、商用技術として世界的に主流なシステムでは生成に6日程度かかるたんぱく質量を、半分の3日間で実現する。三浦教授は「高価なたんぱく質製剤も、現在は大腸菌や哺乳類細胞で生成されている。つくばシステムを利用することで安価に提供できる」と、実用化に向けて期待を込める。

 ワクチンはヒトだけでなく、家畜や養殖魚にも需要がある。中平洋一・茨城大准教授らのグループは、植物の細胞内にあり独自の遺伝情報を持つ小器官で、たんぱく質生成能力が高い「葉緑体」に着目した。葉緑体を狙った遺伝子操作で、魚にウイルス性神経壊死(えし)症を引き起こす原因ウイルスのVLPを生成する、別の種類のタバコを育成。葉から抽出したたんぱく質を高級養殖魚のマハタに経口投与し、ワクチン効果を確かめた。中平准教授は「今後は食べても毒性がないレタスで『食べるワクチン』づくりに取り組みたい」と展望する。

 ヒトの「食べるワクチン」実現に最も近いと言えそうなのが、清野宏・東京大特任教授らが開発した「ムコライス」だ。激しい下痢や嘔吐(おうと)を引き起こすコレラ菌のワクチン抗原をコメに発現させ、米粉にして飲む経口ワクチン。成人男性60人を対象とした第1段階の臨床試験で、安全性が確認されている。常温で長期保存できるコメを利用することで、コレラ菌による下痢症が大きな問題となっている発展途上国で普及しやすくするのが狙いだ。

 植物由来のワクチン製造技術は、植物に組み込む遺伝情報を変えることで応用が可能なため、広い分野で実用化が期待できる。

 メディカゴ社は、季節性インフルエンザや、胃腸炎を引き起こすロタウイルス、ノロウイルスのワクチンの研究開発にも取りかかっている。植物の生育の早さを利用して、パンデミック(世界的大流行)への即応も期待される。新型コロナの変異株で世界を席巻する「オミクロン株」への対応も始まっているという。【三股智子】