図書館本 今年読んだ本ベスト10に入ってくると思う良書

読みだす前、そして少し読みだした時には長崎に家族で移住された方が
近所の猟師さんの活動をエッセイにした程度なのかと思っていた。

しかしである、非常に洞察が深く、自然と人間とのかかわり、人間と動物との係わりに
言及が及び、さらには民俗学・社会人類学的な書からの引用なども駆使して話が進む。

ワナ猟の近所のおじさんとの付き合いから、次にサル使いでもある本格的猟師さんと続く。
そして最後に皮革業の白鞣し職人さんが登場する。

もちろん、鹿や猪を美味しく食べるレシピもある(塩麹を使うと良いらしい)
しかし、そこから食文化へ話を昇華させ、水俣病へと話が進むのも凄いのである。

特に勉強になったのは、皮から革への話である。中世、清めとしての職業の
皮革業、そこに存在した「穢れ」という概念・文化。人間の死体、あるいは動物を屠るという
行為が差別という歴史を創り出し、脈々と続いてきたこと。
ここで筆者はしっかりと網野善彦氏や赤坂憲雄氏を文献として使う。

著者は体験を通して(もちろん、それまでの人生での学びや知識)、生きる事としての死を
見つめ、人と動物の輪廻転生、あるいは循環する時間とでもいうのが正しいだろうか、そんな
哲学をご家族5人で(お子さん3人)身をもって吸収してしまったのだと感じる。

環境学でもあり、食育でもあり、死生学でもあるように感じた書でありました。

山と獣と肉と皮
繁延あづさ
亜紀書房
2020-12-04