オフィス・ホテルの稼働率低下 名古屋 再開発熱に冷や水: 日本経済新聞
今だけ、金だけ、自分だけの経済のゴールでしょうか?
備忘録
「千年先まで残し、世界的な文化財にする」。2020年9月、1954年の開業以来初となる大規模リニューアル工事を終えた名古屋テレビ塔の展望台で、運営会社の大沢和宏社長は力を込めた。
新生テレビ塔は2つの展望施設が入り、ホテルや飲食店など9店舗が入居する。同月、飲食や衣料品など35店舗が並ぶ商業施設「ヒサヤオオドオリパーク」も開業。11月には栄の地下街「セントラルパーク」も改装オープンした。
かつて名古屋市内で地価が最も高かった栄地区は、2000年代後半に名古屋駅前に抜かれている。15〜17年にかけ大名古屋ビルヂングやJPタワー名古屋が次々立った名駅周辺と比べ、その後の再開発も遅れていた。テレビ塔のリニューアルは栄の復権をかけた再開発第1弾ともいえる。
一方、名古屋駅周辺も東側の開発は一巡したが、市は西口に官民で交通ターミナル機能を備えた高層ビル2棟を建設する構想を抱く。市は「世界に冠たるNAGOYA」をキャッチフレーズに再開発の後押しに動いてきた。名駅や栄周辺で、土地の敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合(容積率)を緩和し、より高い建物が建てられるようにした。インバウンド(訪日外国人)取り込みへ、県と連携して高級ホテルの誘致に補助金を出す優遇策も講じてきた。
こうした動きに水を差したのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。
「アフターコロナの需要変化を見極める」。名古屋鉄道の安藤隆司社長は11月、名駅周辺で予定していた高層ビルの建設計画を見直すと発表した。名鉄百貨店など6棟のビルを取り壊し地上30階の高層ビルを建てる予定だったが、計画を当面凍結する。栄では丸栄跡地の再開発も、新たな商業施設の開業が21年11月から22年春にずれ込む見通しとなっている。
人や企業の動きも止まってきた。オフィス仲介大手の三鬼商事(東京)によると、12月の名古屋市ビジネス街のオフィス空室率は3.80%で前月比0.13ポイント上がった。8カ月連続の上昇で、18年3月(3.72%)並の高水準だ。市内のビジネスホテルで組織する「名古屋ホテルズ会」の船橋誠会長によると、11月の名駅周辺のビジネスホテルの平均稼働率は前年同月から30ポイントほど減って6割になった。伏見・丸の内、大須周辺のホテルも稼働率は4割にとどまる。
「テレワークをはじめ新たな働き方が定着している。オフィスなどの需要はすぐ戻らないだろう」。名古屋学院大の江口忍教授はこうみる。コロナ禍で人の動きが止まる中、大規模施設や再開発の必要性が揺らぎ、過剰感が生まれている。
愛知県の人口動向調査によると、10月時点の人口は754万1123人で前年比1万1750人減った。コロナ禍の影響で外国人の流入が減った影響はあるものの、年間合計の減少は56年の調査開始以来初めてだ。
再開発を控える名駅西口の地権者からは「コロナの影響を考慮し、都市計画を見直すべきではないか」との声も漏れる。起爆剤として期待されたリニア中央新幹線も大井川の流量減少問題で静岡県とJR東海が対立し、27年の開業延期が不可避の情勢となったこともそんな声に拍車をかける。
コロナ前に描いた青写真にほころびが見える一方、再開発の遅れを逆手に取るべきだとの声もある。中京大の内田俊宏客員教授は「再開発が進んでいる東京、大阪より、愛知はアフターコロナに対応した都市開発を進めやすい」と指摘する。「デジタル化やソーシャルディスタンスなど新たな生活様式に対応する、愛知独自のまちづくりを模索すべきだ」と訴える。
新常態をチャンスととらえ、東京や大阪に対抗してさらに飛躍することができるのか。行政も事業者も知恵の絞りどころだ。
(小野沢健一)