汚泥500万立方m発生か 富士川中下流、大量流出の可能性|静岡新聞アットエス


ニッケイ工業(日本軽金属が一部出資)元社長は山梨県庁元治水課長からの天下り。

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山梨県早川町の雨畑川からサクラエビの主産卵場の駿河湾奥に流れ込む富士川の河口部にかけ粘着性の泥が広範囲に付着・沈殿している問題で、同県から不法投棄の汚泥撤去を行政指導された採石業者が約8年間で500万立方メートルに上る凝集剤入りの汚泥を発生させていた可能性があることが15日、同県への取材で明らかになった。同県担当者によると、産業廃棄物として処理された記録はない。雨畑川に投棄され、流出したとみられ、粘着性の泥の発生源である可能性が強まった。
 当時砂利や砂の製造販売をしていたニッケイ工業(日本軽金属が一部出資)が2007年2月、山梨県に提出した汚泥処理施設の使用方法に関する届け出書を取材班が情報開示請求し、判明した。凝集剤にはアクリルアミドポリマー(AAP)が含まれ、健康被害を危ぐする医師がいる。500万立方メートルは東京ドーム約4杯分に相当する。行政指導により同社が撤去した汚泥は野積み状態だった4400立方メートルにとどまる。
 開示資料によると、同社は1日当たり汚泥2100立方メートル(最大2800立方メートル)を発生させると届け出ていた。関係者や山梨県によると、中部横断自動車道工事の需要の高まりからプラントはフル稼働状態に近く、年間300日程度営業していたという。不法投棄は台風による出水で汚泥処理施設が損壊したことを契機に11年夏から継続した。
 凝集剤はダンプカーで川まで運びやすくするため使用していた。山梨県は野積みの汚泥撤去を受け刑事告訴を見送った経過があり、担当者は取材に「実際に川に流出した量は不明」と答えた。
 AAPが放置されれば劇物のアクリルアミドモノマー(AAM)に変容する可能性があり、人体に有害。河川や海洋生物の生態系にも影響するといい、関係者から詳細な調査を求める声が上がっている。

 
 ■障害引き起こす恐れ 東京海洋大 佐藤駿佑氏(高分子化学)

  山梨県・雨畑川から富士川河口部にかけて見つかった粘着性の泥に含まれる凝集剤の成分について専門家に聞いた。
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 山梨県早川町の雨畑川で長年不法投棄されていた汚泥に含有される凝集剤成分は、放置されれば100年間にわたって河川環境中に残存し、蓄積され、有害な分解物を放出し続ける恐れがある
 高分子凝集剤の代表的成分のアクリルアミドポリマー(AAP)の製造過程では、法令で劇物指定されているアクリルアミドモノマー(AAM)が重合できず残存する(ただし残存量は国が0・1%未満と定めている)。また紫外線や熱、かくはん、微生物などの影響でAAPは分解しAAMのほか低分子化により毒性の明らかでないダイマーやトリマーなども発生させる。
 AAMは体内で神経障害を生じさせる。仮に雨畑川の水や周辺の地下水がAAMで汚染された場合、住民には慢性的な障害を引き起こす恐れがあるだろう。過去の症例として歩行障害、四肢のしびれ、言語障害など人体に対する中枢および末梢(まっしょう)神経障害が顕著に認められるほか、発がん性を示す可能性が高いとも考えられている。
 静岡新聞社が山梨県に実施した情報開示請求によると、AAPを含む凝集剤はある時点で1日に15キロ使用する計画だった。
 仮にAAP含有量を50%程度とし、不法投棄が続けられていた8年間に、この凝集剤が計画通りに1日15キロ使用されていた場合、取材により営業日は年間300日程度と判明しているので、18トンものAAPが使用されたことになる。海外の信用できる文献によれば、強い紫外線にさらされるとAAPは10日で0・005%がAAMまで細かく分解される。今回の不法投棄事件はもともとの量が膨大なため、10日で900グラム、年間では30キロ以上のAAMが理論上発生する。AAMのラットの半数致死量(1キロ当たり170ミリグラム)を体重60キロの人間に置き換えると最悪の場合毎日9人、年間3200人以上の致死量に相当する。時間を追うごとにAAPの「鎖」は断ち切られ低分子化が進むため、最小単位のモノマーに至る分解速度は文献の記述よりも加速する。富士川水系は“時限爆弾”を抱えているとも言え、極めて深刻な事態だ。

 さとう・しゅんすけ 博士(海洋科学)。環境負荷の少ない天然凝集剤の開発などを手掛ける。30歳。東京都出身。