図書館本 良書

原題:THE BODY ECONOMIC, Why Austerity Kills 2013
Why Austerity Kills 緊縮財政はなぜ人を殺す?

緊縮財政が人を痛めつけ、殺して来た歴史を統計データ(2007年から研究開始)で明らかにしています。

もっと早く読んでおくべきでした。コロナ禍の現在(2020年10月)世界各国のコロナ対策がどの様な結末を迎えるのかも、本書と同じ解析手法で明らかとなり、人々の人生が国の政策によりどういう道をたどるのかという未来が見えて来そうである。

作業仮設は単純明快です。
経済危機(世界恐慌、リーマンショック、アジア通貨危機)等における国々の公衆衛生あるいは保健関連施策を緊縮財政施策とするか経済刺激的施策とするのか。すなわち保健分野の予算を縮小させるのか、それともこれまでと同等あるいは増額するのか?
そして施策実行後のGDP上昇率、失業率、自殺率、疾病率、ホームレス数、平均寿命変化等から結論を導きます。
研究者自身は施策を提出出来ないし、実行も出来ないので、これを自然実験と名付けています。ですから、非常に痛ましい事例にも遭遇し、辛い思いもせざるを得ません。

備忘録的メモ
健康にとって本当に危険なのは不況それ自体でなく、無謀な緊縮政策。
セーフティネットの予算削減:失業、住宅差し押さえ 
疫学転換を除去したあとのデータから死亡率の上昇や低下を検討する
ニューディール政策は、最低限の健康な暮らしを支える役に立ったという意味で、アメリカで実施された公衆衛生政策のなかで最大規模のものである。州ごとにデータは異なる。
ソ連崩壊後の死亡危機(男性死亡数の増加と平均寿命短縮、アルコール中毒や自殺)
ショック療法的政策 急激な市場経済導入(ジェフリーサックスやローレンス・サマーズなどハーバード大経済学者)
ジョゼフ・スティグリッツらは漸進的民営化を主張 しかしIMFの融資と政策
市場経済移行の速度差による自然実験(ポーランド、中欧・東欧、ロシア)死亡率、貧困率に大きな差異
アジア通貨危機、IMFに従った国、従わなかった国(マレーシア) マレーシアは自然実験の対照群となった。そしてマレーシア(マハティール首相)は他のアジア諸国より早く通貨危機を克服 さらにエイズ感染率も抑えられ、幼児死亡率も上昇しなかった。
IMF: Infant Mortality Fund(幼児死亡基金)、I am fired (クビになった)と揶揄
アイスランド金融危機(2008年)IMFに支援要請、しかし極端な緊縮策を拒否 医療予算増額
ギリシャ金融危機 IMFの緊縮財政策受け入れ 種々な不正の暴露 対策費削減による感染症増大
アメリカの健康問題 オバマケアとその後 医療保険制度問題
失業率の増加に伴う抗うつ薬の処方件数増加
失業率と自殺率が相似(スペイン)、自殺率低下(スエーデン 積極的労働市場政策ALMP)
ベーカーズフィールド(米国)でのウエストナイルウイルス蔓延(蚊による媒介)は住宅差し押さえによるプールでの蚊の繁殖が原因 ホームレス化(車上生活を含む)による子供の健康への影響大
不況下での緊縮財政は景気にも健康にも有害
保健医療分野では1ドルの公共投資が経済を3ドル押し上げる
人命にかかわる問題をイデオロギーで考えてはいけない。