人と知恵がつなぐ:/2 愛知・岡崎の和ろうそく 真綿でくるむ灯芯 /愛知 - 毎日新聞



お蚕さんの繭を解くと約1・5キロにもなるという。自然界でこれだけ長い繊維が取れるのは他にはないだろう。糸の太さにもよるが、20個ほどの繭をよれば、1本の長い生糸になる。

 その繭も、二つがくっついてしまった玉繭や、汚れや壊れてしまったものは、真綿に使う。お蚕さんは捨てるところがないのだ。

 滋賀県米原市の北川茂次郎さん、みゑ子さん夫婦は今日も真綿を引っ張っていた。「加減をしながら引っ張らんと、真綿にムラができるでな。そのために指先に力が入るんや」。そう言った茂次郎さんの指先は、曲がっていた。

 強火で2時間ほどゆでた繭を水の中で伸ばし、ほどかれた繭を重ね合わせたものを「角綿」といい、陰干ししてから、夫婦で引っ張る。

 「シュー」という音とともにふわーと真綿が宙を舞いながら広がった。美しい光景で、もともと繭だったなんて想像できない形に変わる。まさに人の知恵だ。真綿の布団が軽くて暖かいぜいたく品であることがよくわかった。

 「昔はどこの家にも、数枚の角綿があったな。布団の綿を包むように、角綿を伸ばし、打ち直したもんだ。真綿の布団なんて、みんな持っていなかったと思うよ」

 1枚の布団にどれだけの繭を使っているのだろうか。

 「真綿は、布団だけではなく、和ろうそくや大工、漆の塗り師にも使われとったんや」と茂次郎さんは言葉を継いだ。

 今ほど物がない時代のモノとモノのつながりに興味を持った。そして、真綿を使っているという和ろうそく職人の3代目、松井規有(のりあき)さんの仕事を見に愛知県岡崎市へ向かった。工房の中に入ると、松井さんが黙々と竹串に刺した灯芯に、ろうを塗っていた。誰でも見学できるように工房はオープンになっている。

 灯芯とは和ろうそくの芯で、ストロー状にした和紙の周りに、灯芯草の髄を巻いたもの。ここで真綿と出合った。その髄が外れないように、うっすら真綿を引っ掛けていたのだ。

 主に灯芯を作っているのは、妻の文子(あやこ)さんだ。洋ろうそくとは違い、和ろうそくの芯は穴が貫通していた。

 「和ろうそくの炎は、揺らぎがあります。時々、ポッと炎が踊ります。灯芯の空洞を空気が抜けるからでしょう。その揺らめきに見入ってしまいますよ。そして風にも強いんです」

 ひっかかる真綿は、髄を止めるに最適だったのだろう。指先の器用な文子さんは、あっという間に1本を作り上げた。

 ところで和ろうそくのろうってなんだろう? 工房には半円形をしたろうの塊が仕分けられていた。福岡、長崎、和歌山産。僕はそのろうが気になり、松井さんから紹介を受け福岡県みやま市へ飛んだ。

 「ろうって、ハゼの実を絞ったものなんだよ」

 「ハゼ?」<大西暢夫>=次回は6月27日掲載

 ■人物略歴
大西暢夫(おおにし・のぶお)さん

 作家、写真家、ドキュメンタリー映画監督。1968年生まれ、岐阜県池田町在住。ダム湖に沈む岐阜県徳山村をテーマにした著作と同名映画の「水になった村」を発表。近著は「ホハレ峠」「お蚕さんから糸と綿と」など。映画「オキナワへいこう」は、自主上映活動が全国で展開されている。