火論:「イージス騒動」と沖縄=大治朋子 - 毎日新聞


まさにリニア新幹線と同じ構図

以下記事
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 「サンクコスト(埋没費用)の呪縛」という経済学の言葉がある。

 埋没費用とは回収不能になったお金や時間、労力を指す。それを気にするあまりさらに投資して後に引けなくなるのを「サンクコストの呪縛」と呼ぶ。意思決定ではそうしたコストをあえて無視しましょう、という意味で使われる。

 もともとは、英仏両政府が共同開発した超音速旅客機コンコルドの採算が取れないと途中で分かったのに開発を続行して大赤字になったことから生まれた表現。「コンコルド効果」とも呼ばれる。

 この言葉を久しぶりに思い起こしたのは先日、防衛省が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」について事実上の白紙撤回を決めたから。ミサイルを発射すると途中で切り離される装置を安全な場所に落下させられないと最近分かり、追加で必要になる費用や時間を考えて判断したという。

 これは官邸主導の案件で首相の責任は大きい。ただサンクコストに引きずられず大局観を持って最終的に幕を引いた河野太郎防衛相の決断は支持したい。大きな事業の停止は関係者の意地やメンツも絡んで何かとややこしい。だが地元住民の命を軽視するような事態が起きてしまっては本末転倒だ。

 ところで巨額の資金を投じた防衛関連事業が事実上、暗礁に乗り上げているケースとしては、沖縄・米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の問題がある。自民党や防衛省の一部幹部の間では、移設の実現性を危ぶむ声も少なくない。

 辺野古移設を巡っては防衛省が2016年までに行った海底ボーリング調査で「マヨネーズ状」とも言われる軟弱地盤が見つかっている。これは最も深いところでは海面下90メートルにも達するため大規模かつ困難な改良工事が必要だ。費用も時間もズルズルと想定以上にかかる可能性が高く、沖縄県民は県民投票などで繰り返し「辺野古ノー」の意思を突き付けている。

 辺野古移設は政府が「唯一の選択肢」としているがそもそもその効果も疑わしい。軍事アナリスト、小川和久さんがこのほど出版した「フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由」(文芸春秋)によれば、米政府監査院(GAO)は1998年、09年、17年4月にそれぞれ公表した報告書で辺野古案は「作戦所要(作戦や訓練に必要な条件)」を満たしていないと指摘している。

 今日、6月23日は本土防衛の「捨て石」とされた沖縄戦終結の日。サンクコストに惑わされぬもう一つの決断を期待したい。(専門記者)