リニア乗客の安全問題に切り込まず。堕ちた日本のジャーナリズム - Yahoo! JAPAN


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以下記事 10月29日

まぐまぐニュース

2027年の品川・名古屋間の開業に向け工事が進むリニア中央新幹線。開業後、約25kmに及ぶ南アルプストンネル内で立往生する事態が起きたときの安全対策に不備があると、メルマガ『NEWSを疑え!』の共著者の一人、西恭之・静岡県立大学特任助教が訴えたのは今年7月初めのことでした。この問題について、静岡県知事が10月11日に言及。しかし、問題意識を持って追取材に動いたマスコミは現時点で確認できていないようです。メルマガ『NEWSを疑え!』主宰者である小川和久さんは、こういった現状に接し、日本のジャーナリズムの劣化を嘆きます。
リニアの問題を報じないマスコミ

今年7月1日号のテクノ・アイ(西恭之・静岡県立大学特任助教)を憶えていらっしゃるでしょうか。建設中のリニア中央新幹線について、地震や停電時の乗客の避難対策の不備を指摘したものです。

静岡県内の場合、乗客は緊急停車したリニア中央新幹線から斜坑を3キロ以上歩いて2個所の非常口から地上に出ることになっていますが、まず、元気な人間でなければたどり着くのは難しいほどの勾配と距離です。たどり着いたとしても、非常口は標高1000メートル以上の高さにあり、そこから下山しようとしても標高1000メートル以上の高地を避難所が設けられる可能性のある場所まで、10キロ以上を歩かなければなりません。冬などであれば、東京や名古屋の服装のままの乗客が寒さから命を落とす危険性は明らかです。

しかも、南海トラフ地震や東海地震が起きた場合、緊急停車したリニア中央新幹線の乗客に対して、自衛隊を含めて、災害対応で大わらわの行政組織の手が回るとは思われません。救援の手はさしのべられないと思わなければならないのです。

そう考えれば、非常口などはもっと脱出しやすい位置や構造にして、乗客の自助・共助だけで危機を脱することが可能なものにする必要があります。西さんのコラムでは、乗客の安全に配慮したスイスのゴッタルドベーストンネル(57キロ)の例などが紹介されています。

この問題について、10月11日、静岡県の川勝平太知事が記者会見で触れ、西さんのコラムも配付しました。その結果は、日本のマスコミの惨憺たる現状を表すものとなりました。

取り上げたのは中日新聞だけ。それも西さんへの取材はおろか、具体的に知事が指摘した危険性に言及したものでもありませんでした。単に「知事がこんな話をした」という、おざなりの「出席原稿」(ちゃんと仕事をしているというアリバイ原稿)として処理されてしまったのです。

この問題に火が付けば、下手をするとリニア中央新幹線計画は頓挫するおそれさえあります。そうでなくとも、乗客の安全対策について新たな工事などが必要となるでしょう。

少なくともジャーナリストであれば、西さんに取材し、コラムに書かれたスイスの具体例などを確認し、JR東海に取材するでしょう。さらに、一定の乗客安全対策が施されている青函トンネルの安全対策についてJR北海道にも聞くはずです。残念なことに、その形跡はいっさいありませんでした。

私はJR東海のドン・葛西敬之名誉会長とは1991年以来の付き合いですし、その関係からもリニア中央新幹線には成功して欲しいと思っています。静岡県と対立している大井川の流量減少問題も、良い形で決着して欲しいと願っています。

しかし、ことは乗客の安全の問題です。少しでも疑問が残るようなら、その点を解明しなければなりません。JR東海が気づいていないなら、問題を指摘し、解決に向けて動かすのもジャーナリズムの仕事ですが、そういう問題意識がまったく感じられませんでした。

実を言えば、西さんのコラムはメルマガ『NEWSを疑え!』の読者である少なからぬ大手マスコミのベテラン記者が目にしているのですが、コラムが出てから3か月以上も経つのに反応はゼロでした。

これをジャーナリズムの劣化と言わずして何と表現すれば良いのでしょうか。ボーッと記者発表を垂れ流しているんじゃねえ!と怒鳴り上げるようなデスクなんて、もはや、棲息していないのでしょうね(苦笑)。(小川和久)

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