図書館本 良書です。

国籍とは何か、アイデンティティとは何か。
読み書きの出来なかった母親への深い愛情。
同じ言語を話しながら境界線で分け隔てられた朝鮮半島。

息子さんの死、軽井沢への転居、花や猫、奥様との生活。

金大中氏との関わり、米中首脳会談、南北首脳会談

ご自身の出自や生きて来た道を辿りながら綴ったエッセイ。

メモとして残しておきたい文章

福島原発事故のあとの取材で、誰もいなくなった街で菫(すみれ)を見た時の感想。

愛する息子が亡くなったとき、あまりの悲しみに涙を流すことすら忘れていたのに、
それまで堪えていたものが堰を切ったように、私は思わず涙していた。

ひたむきに豊かさを求め、科学技術の輝かしい未来を信じ、熱に浮かされるように
経済成長を邁進し続けた戦後の日本。私の人生は、その「申し子」のような半生
だった。民族的な少数者に伴うハンディがあるにせよ、私はその上昇気流に乗り、
その恩沢を受け、次の世代にもそれがしたたり落ちるに違いないと確信していた。
だが、愛する息子さえ救えなかったすれば、その豊かさとは何だったのか。
私の信じた科学技術のもたらす生産力は何だったのか。東日本大震災と原発事故は、
その疑念を、壮大な規模で白日のもとに晒したように思えてならなかった。