そのメダカ 人工外来魚? 病気や交雑で在来種を駆逐 :日本経済新聞


日経もしっかりした記事書いてますね。

以下記事

飼育用に人工改良されたメダカや金魚、コイなどの放流は生態系に悪影響が及ぶことが最近の研究でわかってきた。生息環境が変わったり感染症を広めたりするなどして、在来種が絶滅するおそれがある。専門家は「第3の外来魚」と名づけ、放流の禁止を呼びかけ始めた。ゲノム編集など技術の進歩もあり、危険性はさらに高まるとの指摘もある。
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 大阪府南部、泉佐野市の景勝地として知られる犬鳴山温泉。8月中旬、金魚を川へ放流するイベントが開かれた。渓谷を流れる川に約3000匹の金魚が放たれ、約500人の親子連れがすくった。

 「無事に開けてよかった」と同市観光協会の担当者は安堵の表情を浮かべた。金魚の放流は夏の風物詩となっているが、実は昨年、自然環境に及ぶ危険性を指摘する批判がネットで相次ぎ、一部が中止に追い込まれたからだ。そこで川の下流に網を設けて金魚が逃げないようにしたほか、観光客に捕まえた金魚を放流しないよう呼びかけた。

 金魚は野生のフナが突然変異や交配を繰り返して人が作り出した種で、自然界には存在しない。日本魚類学会会長を務める近畿大学の細谷和海教授は金魚の放流について「問題が大きい」と指摘する。影響はまだわからないが、野生のフナが金魚の病気に感染したり、交配によって雑種が生まれて遺伝子の多様性が失われたりする恐れがある。

 同学会はこうした人工繁殖された魚を「第3の外来魚」と名づけ、放流しないよう呼びかける活動を今年から本格的に始めた。

 外来魚はその地域の河川や湖などには生息せず、他から持ち込まれた魚だ。海外産で在来種を食べるブラックバスやブルーギルがよく知られている。同学会はこうした外国から入った魚を「第1の外来魚」と定義した。「第2の外来魚」は国内の他の地域から人が運んできたもので、琵琶湖から関東近辺に移植して繁殖したヘラブナなどがある。

 第3の外来魚の問題は金魚だけで終わらない。実は絶滅が危惧されているメダカの方が深刻だ。近畿大学の北川忠生准教授によると、野生のメダカは「ミナミメダカ」と「キタノメダカ」の2種類あるが、最近は体が黄色い「ヒメダカ」が目立つという。

 ヒメダカは人が作り出した品種だが、メダカという名前があるため野生種と勘違いして、身近な環境から姿を消しつつあるメダカを復活させようと野外に放流する例が少なくないという。

 ヒメダカは国内の河川でどれだけ広がっているのか。北川准教授は全国123地点の河川でメダカを捕獲して遺伝子を調べたところ、約4割に相当する48地点で、ヒメダカの遺伝子を持つものが見つかった。野生種とヒメダカの交雑種もあり、長い年月をかけて作り上げられた遺伝的な多様性が少しずつ失われている。北川准教授は童謡「めだかの学校」になぞらえて「メダカの転校は駄目だ」と強調する。

 すでに、全国各地の河川や湖でみられるコイは在来種が貴重な存在になってしまった。国立環境研究所琵琶湖分室の馬渕浩司主任研究員は全国の湖などでコイを捕獲して遺伝子を調べたところ、中国などに由来する養殖用の「ヤマトゴイ」という品種が多く、国内在来のコイは少なかった。

 在来コイは琵琶湖の深い場所に特に多く生息しているくらいだ。馬渕主任研究員は「琵琶湖は在来コイの最後の砦(とりで)だ」と強調し、絶滅の恐れを危惧する。コイは国際自然保護連合(IUCN)の生物多様性に影響を及ぼす外来種に指定され、世界的にも規制の強化が進む。

 第3の外来魚への対策はないのか。環境省は外来種を規制する「外来生物法」で、14年から交雑種も新たに対象に加えた。第3種の外来魚であるサンシャインバス(ホワイトバスとストライプトバスの交雑種)も指定した。今後、金魚やメダカ、コイなども規制される可能性はある。

 それでも品種改良技術の進歩は早い。同省の曽宮和夫外来生物対策室長は「ゲノム編集は人工育種によって外来種を作り出すことが可能で今後注目しなければいけない」と指摘する。ゲノム編集はこれまでの育種法に比べて新種を生み出しやすい。体が普通より大きいマダイやマグロの開発が進む。ゲノム編集が普及すれば、人工育種による第3の外来魚が拡散する恐れが高まる。

 小中学校などでは自然と親しみ理解する環境教育の一環で、魚の飼育や放流に取り組むケースも多い。誤った善意が生態系を壊すことにつながることもあり、正しい理解が欠かせない。

(竹下敦宣)