「もんじゅのため死ぬことなかった」 自殺した職員の妻:朝日新聞デジタル


西村さんの死に関しては、下記の本がルポしています。

以下記事
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)で1995年12月に起きたナトリウム漏洩(ろうえい)事故をめぐり、内部調査担当の職員の命が失われた。遺書があり、飛び降り自殺とされた。なぜ死ななければならなかったのか――。妻は自ら調べ、裁判も起こし、問い続けてきた。19日、もんじゅを廃炉にする政府方針が同県に示された。夫に言いたい。「もんじゅのために死ぬことはなかったんだよ」



 事故から約1カ月後の96年1月13日。東京都内の病院に駆けつけた西村トシ子さん(70)が見たのは、顔や肩が青紫色になり、体が一回りも腫れ上がった夫の成生(しげお)さん(当時49)の姿だった。病院までの車内のラジオで「自殺」と報じていた。「まさか、信じられない」

 成生さんは、もんじゅを運営していた動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現・日本原子力研究開発機構)の総務部次長。ナトリウム漏洩事故で現場を撮影したビデオを動燃が隠していた問題について、自らは関わっていなかったが、その内部調査を担当していた。

 成生さんは事故当時、岡山県の人形峠のウラン残土問題で住民対策を担当していたという。さらにビデオ隠し問題の内部調査も「特命」として任され「二つも難しいことをやらされる」とこぼしていた。泊まり込む日も増え、帰宅しても入浴して寝るだけだった。

 2人は職場結婚。トシ子さんが知人の紹介で入社した動燃の同じフロアに成生さんがいた。休日に息子2人と公園でピクニックをするのが好きな夫だった。

 亡くなる前日朝、いつものようにコーヒーをいれたが、成生さんは手をつけずに家を出た。窓越しのコート姿が最後だった。「もっと話しておけばよかった」と悔いる。

 その夜の記者会見に成生さんは出席。動燃の管理職がビデオの存在を知った時期について、調査内容と違う虚偽の発表をすることになった。その後、ホテルから飛び降りたとされる。葬儀は動燃が仕切り、国会議員、電力会社や原発メーカーの社員ら約1500人が参列。「事前に説明もなく、芝居を見せられたような感覚だった」

 直前の正月、集まった親族の前で長男が結婚予定を報告していた。家族への遺書はトシ子さん宛ての1枚だけで、理由も書かれていない。「なんのために亡くなったのかもわからない」

 動燃の理事長宛てに「話を聞かせてほしい」と何度も手紙を書いた。4月に職員から簡単な説明を受けたが、場所は居酒屋だった。動燃の会議室で業務内容などの説明があったのは10月になってから。出勤簿でも、亡くなる前の4日間の勤務時間もわからない。自分で警察や病院、現場のホテルなどで当時の状況を聞いて回った。

 2004年、不祥事が続いた動燃が改組した核燃料サイクル開発機構に対し、雇用主として安全配慮義務に違反したとする訴訟を起こした。職員らに証人として当時の話を聞けば、亡くなる直前の様子がわかると思ったからだ。しかし詳細がわからないまま敗訴。12年に最高裁で確定した。訴える相手はさらに組織再編し、日本原子力研究開発機構になっていた。

 裁判で争うなか、「人を死なせてまで存続しようとするもんじゅは許せない」という思いも芽生え、反対運動にも参加してきた。昨年、機構は原子力規制委員会から「安全に運転する資質がない」と勧告された。「ずっとごまかしで運営を続けてきた結果だ」と感じた。今年9月、政府も、もんじゅについて廃炉を含む抜本的な見直しを決めた。

 遺品返還を求め、警視庁に対して今も係争中だ。政府は近く正式にもんじゅの廃炉を決定する。「廃炉となれば一つの節目になる。肩の荷が下りる」と話す。

 東京都内の自宅2階にある成生さんの仏壇には、亡くなったときにつけていた金色の腕時計がある。「太ってきつくなったから、新しいのを買わなきゃねって話していたんです」。手に取ってなでながら、トシ子さんは目を伏せた。時計は今も時を刻み続けている。(西村圭史)

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 〈もんじゅナトリウム漏洩事故のビデオ隠し問題〉 1995年12月8日、もんじゅの配管でナトリウム漏れ事故が発生。動燃は事故翌日に2度、現場の様子をビデオ撮影していたが、最初の映像の存在を隠し、公開した2回目の映像も短く編集していたことが発覚した。

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■もんじゅをめぐる動き

1994年4月 初臨界

 95年12月 ナトリウム漏洩事故発生、ビデオ隠し問題が発覚

 98年10月 運営主体の動力炉・核燃料開発事業団が改組、核燃料サイクル開発機構発足

2005年10月 組織再編で日本原子力研究開発機構が運営主体に

 10年5月 14年半ぶりに試験運転再開

   8月 炉内に中継装置を落下させる事故を起こし再び運転停止

 12年11月 約1万点の機器の点検漏れを原子力規制委員会に報告

 15年11月 規制委が運営主体を代えるように勧告

 16年9月 政府が廃炉を含む抜本的見直しを決定







2015年12月の東京新聞記事はこちら

読書ログ 2013

原子力ムラの陰謀 機密ファイルが暴く闇
今西憲之
朝日新聞出版
2014-03-11