研究不正 黒木登志夫 中公新書 2016 今年のベスト10(ベスト5かな)には必ずリストされると思う。

これは購入でしょ、やっぱりね。大学院時代 大学院実習でお世話になり、同じ研究棟で出来の悪い学生の面倒を大変優しくご指導いただきました。今でも覚えています、in situ autoradiography でトリチウム取りこみ細胞と細胞表面マーカー染色を同定しました。

どうして研究不正は起こるのか?
その背景を多くの研究不正事例から黒木先生(1936-)が考察します。
そしてさらに、科学者の社会的責任とは何かを考えるきっかけに本書はなると思います。
もちろん、研究者の誠実さ(integrity)の問題でもある。


個人的に言えるのは、僕自身もそうですが、研究不正や論文の書き方、作り方を授業等で習った事はなく、研究室の先輩や教官から教わったという事です。もちろん研究結果を研究室内のミーティングで生データを用いて議論はします。だから、通常は捏造、改竄、盗用などは起こり得ないと考えていました。しかし本書を読んで理解したのは、実は研究不正は、ある意味、簡単に何処でも、誰にも起こし得るということです。
そして科学そのものの信頼を無くした原発震災 3.11を黒木先生もがんの専門家として、放射線発がんを知る研究者として何一つ発言できなかったと吐露しています。
そこには安全神話を創り出した科学者ムラ(本書では科学者村)の存在があることを指摘しています。

自分自身が研究不正をしないことは当たり前ですが、周囲で研究不正が行われないようにする基本的な研究姿勢や教育(研究倫理)の必要性も大きいということを本書は繰り返し指摘しています。
3つの研究不正
Fabrication (捏造)
Falsification (改竄)
Plagiarism (盗用)

備忘録メモ
日本では2000年までは目立った研究不正はなかった。
撤回論文数のワースト10には日本人が1位と7位に。ワースト30に5人。
ノバルティス社の不正 愚弄された医学界と患者 奨学寄附金というワナ(5大学に11億円以上)
撤回論文数世界一位の麻酔医(東邦大学) 原著論文216報(英文205)のうち捏造172報、捏造の無い論文3報のみ 共著者および指導教官の役割とは?
告発サイトが明らかにしたスター研究者の不正(東大 2012) 実験前に作業仮説に合う画像を「仮置き」
STAP細胞不正 ホップ・STAP・ドロップの経緯 論文発表直後から画像不正、盗用が指摘 科学から遠い人ほどHO氏(小保方)を支持、擁護。共同研究者の役割の不備(笹井、若山)
ギフト・オーサー(名誉オーサー)、ゲストオーサー(招待著者)問題
不適切な出版および出版社の存在 重複出版 サラミ出版(研究成果を薄く分けて2報にする)
捏造論文は再現できない(STAPその他) 医学生物学論文の70%以上が再現できないとも言われる(ネーチャー誌)
プロブレス(降圧剤 武田)と京大医学部の間の奨学寄附金 5年間で20億円
利益相反 高額な講演料と臨床治験
ソーシャルメディアからの告発 種々な告発サイト
オープンアクセス誌(紙媒体は無くネット公開)と研究不正の関係性 投稿料稼ぎの雑誌の存在(捕食ジャーナル)
野口英世の病原体分離ミスは研究不正ではない。当時の技術的限界、他の病原体の同定と分離
撤回論文数ワースト11位(32報 琉球大教授 長崎大NM 2000−2009年)森直樹氏と思われる。停職10か月から復職 
HIV(エイズウイルス)のワクチンの可能性を示した研究(2010年 学会のみ) NIHは12億円の研究費獲得 再現性得られず。 完全な捏造 720万ドルの罰金と4年9か月の懲役
大学学長の疑惑(東北大) 発表論文数 2500以上
研究不正のコスト 研究費の無駄、追試のための費用 調査費用

研究倫理教育の必要性 指導者の役割 (オリンピックエンブレム問題 職場内のコピペ パクリ)