リニア・新幹線… 米高速鉄道、動き出した日本の挑戦  :日本経済新聞


11月27日 備忘録

11月上旬、米運輸省のアンソニー・フォックス長官は山梨県にいた。目的は超電導リニアの試乗だ。石井啓一・国土交通相や東海旅客鉄道(JR東海)の葛西敬之名誉会長らと7両編成の試験車両に約25分乗車し、最高時速505キロメートルの乗り心地を味わった。「輸送の奇跡がここまで来ている証明だ」。フォックス氏は試乗後に、2780万ドルの連邦予算を拠出してリニアの米国導入へ事業化調査する考えを表明した。


 日本の悲願である高速鉄道の対米輸出が、ゆっくりとだがようやく動き出す。

 一つはフォックス長官が検討を表明したリニアの導入だ。「北東回廊」と呼ばれる首都ワシントンとニューヨークの間を結ぶ壮大な構想で、その先行区間としてワシントンとボルティモア間に2020年代後半にも新線を開業する案を練る。実現すればワシントンとボルティモア間はわずか15分で結ばれ、ニューヨークまでも約60分で済む。初めて連邦予算が交付され、環境調査などが始動する。

 もう一つはダラスとヒューストン約390キロメートルを日本の新幹線技術で結ぶ「テキサス高速鉄道計画」だ。21年の開業を目指し、11月21日に日本の官民ファンド「海外交通・都市開発事業支援機構」が出資を決めた。油田を抱えるテキサス州は自動車大国アメリカの象徴的な土地でもある。広大な牧草地帯を横切る新幹線が開通すれば、米国の文化そのものを変える潜在能力を持つ。

■資金調達、民間主導へ 日本勢じわり巻き返し

 「そもそも米国の高速鉄道構想は頓挫しかけていた」と日本政府関係者は明かす。計画が最も前進したのはオバマ政権が発足した09年だ。リーマン・ショック後の経済浮揚策としてオバマ氏は大型インフラ投資の実行を表明。環境対策とも相まって全米に高速鉄道を敷く大規模構想を打ち上げた。ただ、その後の中間選挙での敗北など政権は退潮を余儀なくされ「結局、高速鉄道の敷設は1ミリも進んでいない」(同)。

 日本勢がじわりと巻き返しつつあるのは、資金調達が米国政府頼みから民間主導へと色合いを変えたためだ。

オバマ政権の高速鉄道構想が頓挫したのは、共和党主導の議会運営のもとでは大型予算が認められないことが要因。そのためテキサス高速鉄道は100億〜120億ドル(1兆2千億〜1兆4400億円)とされる総事業費を民間主導で賄う方向だ。既に地元不動産会社など民間から7500万ドルの出資を受けており、JR東海なども出資の検討に入った。東海岸のリニア構想も、事業化調査はボルティモアを州都とするメリーランド州が主導するが、事業運営はJR東海と提携する民間新会社が請け負う。


 ただ巨額の資金を民間主体で賄うには「利益が出るという確実な計画が必要だ」(JR関係者)。日本政府は国際協力銀行(JBIC)を通じて事業費を融資する検討に入っているが、その場合でも赤字事業に貸し出すことは不可能だ。とりわけリニア構想はワシントンとボルティモア間だけでも100億〜200億ドルの事業費がかかる可能性がある。大都市であるニューヨークまで延伸しようとすれば、事業費は桁外れに大きくなるのは避けられない。

 米国は鉄道不毛の地。第2次世界大戦後に本格的な鉄道路線が民間主導で実現した事例がそもそもない。全米鉄道旅客公社(アムトラック)は慢性的な赤字体質で、乗り心地も悪く脱線事故すら珍しくない。「安全で時間も正確」という日本の鉄道へのイメージは、米国ではまったく当てはまらない。そうした米国の交通文化の中で「収益力の高い民間鉄道」をどう投資家らにアピールするかが今後の成否を握る。

■まず新幹線で収益力アピール、リニア構想につなげる

 米高速鉄道の日本の挑戦は2段階だ。まずは日本の新幹線技術を導入したテキサス高速鉄道で、自動車社会である米国の交通文化を変える。そのうえで収益力をアピールして「高速鉄道はビジネスになる」と投資家の意識が変われば、いよいよ東海岸のリニア構想が実現に向けて動き出す。

 インドネシアでは高速鉄道建設の受注を中国にさらわれた。安倍晋三首相は22日、訪問先のマレーシアでインドネシアのジョコ大統領と会談して「率直に結果には失望している」と冷たく伝えたが、日本の高速鉄道輸出の戦略練り直しが必要なのは明らかだ。民間資金を軸とする「収益力の高い高速鉄道」が実現できれば、インフラ輸出戦略の大きな武器になる