図書館本

完全に本の中に飲み込まれます。
そして本の中の島、森、人が目の前に見えます。
梨木ワールドは日々重厚さを増し、読む者を虜にするように思います。

主人公の秋野を僕は民俗学者の宮本常一とダブらせていた。離島に対する強い想いが離島振興にも繋がった。
しかし、最終章で向かうのは。。。。
参考文献に宮本の名前は出てこない、しかし多くの地理民俗学的な書が紹介されている。そしていつもの様に森の植物や動物の広範な知識が。

備忘録的にメモしておきたい。
修験道、神仏習合、神仏分離、廃仏毀釈

「読んでいるうち、その地名のついた風景の中に立ち、風に吹かれてみたい、という止むに止まれぬ思いが湧いて来たのだった。決定的な何かが過ぎ去ったあとの、沈黙する光景の中にいたい。そうすれば人の営みや、時間というものの本質が、少しでも感じられるような気がした」

「風が走り紫外線が乱反射しえ、海も山もきらめいている。照葉樹林の樹冠の波の、この眩しさ。けれどもこれもまた、幻。だが幻は、森羅万象に宿り、森羅万象は幻に支えられてきらめくのだった。世界を見つめる初歩の初歩のようなこの認識は、また奥の奥のような常(つね)新しいきらめきを放ち、山根氏が問うた「色即是空の続き」は、経のなかでは空即是色だったということを、今更ながら私に気づかせた。「続き」は、空即是色だった。修験道たちが、修行のなかで、この島のあらゆる場所で、洞窟で、断崖で、滝で、何万回も呟いたであろう、色即是空、空即是色。この島に充ちているはずのその文言。なぜこんな当たり前のことがわからなかったのか。」

海うそ
梨木 香歩
岩波書店
2014-04-10