理科の探検 2014年春号「特集 ニセ科学を斬る!EM団子の水環境への投げ込みは環境を悪化させる」 | SciencePortal


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転載 一部グラフは転載できないのでオリジナルのリンクからご参照ください。
また、他のニセ科学に関しての特集号が下記の雑誌となります。


何故研究者は研究論文を書かねばならないのか?

EM菌、EM団子は科学と言えるのか、それとも科学と言えないのかを見極めるためには、この項目は極めて重要であるから、最初に取り上げることにした。なお、科学と言えないとの意味は下記に述べるように、価値ある科学雑誌に掲載された論文がない研究を言う。

いかなる研究分野においても、未解決の問題を科学的に解明できた時の喜びは、何事にも代えられない研究者冥利につきる。私が助手の時代、学会や調査旅費は1回東京の学会に出席すればなくなる額だった。従って、調査は自前で行くしかなかった。40年程前、水俣病の原因は水銀(メチル水銀)ではないかと言われていたが、当時天然に存在する水銀濃度も全く分からなかった。あまりにも低濃度のため、信頼できる分析方法がなかったからだ。

私は、数年間寝食を忘れて高感度の分析法を開発し、天然レベルの水銀濃度は数ng/l(ng = 10-9g)であることを、さらに水銀汚染のある河川水中の水銀濃度と魚の水銀濃度との関係も明らかにした。水銀汚染のある河川を探して、本州、北海道を調査したがすべて自前であった。しかし、この成果は著名なNature に2回掲載された。多くの研究者は1度でいいからNature かScience に掲載されることを望んでいるが、採択率は数%程度で掲載されるには、極めて難しい科学雑誌である。

何故苦労し英文にして国際誌に投稿するかというと、著名な科学雑誌に掲載されることは、研究成果が世界でオーソライズされたとみなされるからである。掲載された研究論文は、誰がこの実験を行っても、同じ結果が得られるから科学と言えるのだ。従って、掲載された論文がない限り、研究や講演内容の信頼性はほとんどないと言える。



EM菌を知ったきっかけ

北大時代タイから2名の院生が留学していた。私は、森が海の生物に果たす役割の研究をしていたから、留学生には海の森林、マングローブでの食物網(連鎖)のテーマを与え、何回もタイに調査・研究にでかけた。タイでは、農業分野でEM菌を使用している人もいると聞いたことがあるが、漠然と農業には使われているのかなと思った程度であった。

その後、道庁の某部長から、土壌に落下した枯葉の分解がEM菌で速くならないかを実験してもらいたいとの依頼があり、1年間酸素の存在する好気性状態、無酸素の嫌気性状態で実験を行ったがその効果は認められなかった。その理由は、土壌1gに生存するバクテリア数は数億から数10億であり、環境に適応した常在バクテリアが増殖するのである。酸素のない嫌気性状態に好気性バクテリアを添加しても、好気性バクテリアは増殖できず、死に至るか休眠状態(芽胞)になり、全く意味はない。その逆も同じことである。つまり、環境に適応した常在バクテリアが増殖し、活動しているから、EM菌を加えても効果がなかったものと思われる。

さらに、20年も前になるかと思うが、私は新潟県の長岡市の団体から講演を依頼された。同時にEM菌の開発者、琉球大学比嘉教授も招かれていた。EM菌の理論は何なのかと思い、比嘉教授の話を真剣に聞いていたが、EM菌で育てると農作物の生育がいいというような結果論で、その理論を話された記憶はない。また、科学では説明できない非科学的な事項も話されたので、それは記憶している。その内容は、” ガソリンにEM菌を混入すると燃費が20%もよくなる、セラミックにEM菌を混入すると、特別なセラミックになる(特別なセラミックの意味は忘れた)、海に散布すれば磯焼け(海藻がなくなる現象)が解消されるなど、話されたがその理論の説明は全くなかった。私は、非科学的な話をされることに違和感を覚えた。

その後、EM菌とは無関係であったが、郷里三重県では義務教育でEM菌、EM団子の教育をしていること、また四日市市では河川などに投入するEM菌、団子に補助金をだしているのでは、三重県は非科学的な県だと思われるのは残念でならず、放置していいわけがないと思った。それに、四日市に在住している高校時代の友人も市民税を払いたくないと憤っているが、それがまともな市民感情である。

義務教育で科学的に疑問視されている事項を正しいと教育していては、三重県(四日市市、鈴鹿市、伊勢市などではEM菌を使用)からノーベル賞どころか、オリジナルな研究成果を世に送り出す人材が育つはずがない。教養(学歴ではない)のある親なら、非科学的な教育をしている公立学校に、子供を学ばせるのを敬遠するだろう。

生徒には、最初に河川が何故悪臭やヘドロ化するのかを教え、次にその原因物質はどこからくるのかを教える。これらの説明から元の河川に戻すには、どうすべきかを子供たちに考えさせることが、教育の本質ではないか。また、後述するように血税を無酸素化、ヘドロ化する原因物質の河川への流入を断つことに使えば、生きた血税の使い道になる。

三重県ではEM団子(米ぬかも含有)を悪臭のある河川や貧、無酸素水塊が拡大している伊勢湾に投入しているが、何故悪臭を発生するのか、何故無酸素水塊が生じるのかを理解すれば、EM団子の投入がいかに無意味な行為であるばかりか、悪臭や無酸素化を助長していることを理解されるものと思う。



何故河川が悪臭を発したり、河底土がヘドロ化するのか? また、何故伊勢湾の底層が貧、無酸素、ヘドロ化するのか?

母校四日市高校のグランド横を十四川が流れている。当時は、河川水量も豊富で、どこにでも見られる自然の河川であった。ところが、上流の丘陵地帯が開発されたことや河川周辺の水田が宅地化された。このため、河川水量が激減し、家庭雑排水が流入したため、悪臭を発し、ヘドロ化したと思われる。悪臭、ヘドロ対策として、EM菌、団子を投入しているが、この行為は悪臭をなくすどころか悪臭を助長させていることを次に述べる。

水が流れている河川で悪臭がしますか?たとえ下水道でも、水が流れている場合悪臭がしますか?水に溶存酸素が存在する限り、悪臭を発する化学物質は生成されないのである。

下水道の終末処理場では、空気(酸素)を吹き込み(曝気)、好気性バクテリアによる活性汚泥法が使われている。何故酸素を共存させるかというと、有機物を最も速く分解できるからである。有機物を速く分解させるには酸素共存下(好気性)が最適な手段なのだ。

北大時代、環境に関し多岐にわたる研究を行ってきたが、家庭雑排水などの溶存酸素がなくなると、有機物を分解する速度は酸素のある場合の1/10に激減する。好気性分解に勝る方法は存在しないのである。

次に、酸素がなくなる嫌気性状態について述べる。無酸素になると天然に存在する硫酸塩が硫酸還元バクテリアで還元されるため、硫化水素、メチルメルカプタン(硫黄含有有機物)などの悪臭を発する化合物が生成する。また、家庭雑排水には硫黄を含有するアミノ酸が含有されており、この硫黄も硫酸塩同様、上記の悪臭を発する化合物になる。

悪臭を発している河川の河底土は黒色でヘドロ化している。黒色しているヘドロは岩石の風化で生じた微細鉱物、未分解の有機物、それと無酸素状態下で形成された硫化鉄が混合したものである。何故黒色を呈するかと言うと、無酸素状態下で鉄サビが鉄還元バクテリアによって還元された鉄イオン(Fe2+)と、硫酸塩が還元され生成した硫化物イオン(S2-)の溶解度積が小さいため、黒色の硫化鉄(FeS)の微細粒子が形成されるからである。

トイレを除く家庭雑排水が未処理なら、我々は一人、一日にBOD(有機物量と考えたらいい)を27g河川に放出している。4人家族なら、約100gになる。炭素量を50%とすると、この有機物を分解するには、約130gの溶存酸素が必要である。100gの雑排水が河川に流入した場合、河川水1L当たり仮に10mgの酸素が溶解しているとすると、水が滞留している幅5m、水深20cmの河川では、長さ13mに渡り、夏季なら図2のように、4時間以内に無酸素状態になる。20軒なら260mの河川が無酸素になる。河川水の流れが少しあったとしても、毎日雑排水が流されるのだから、260mどころかかなり広範囲に渡り、無酸素状態が延々と続くのである。これから分かるように、河川に流入する有機物を断つか水量を増やさない限り、河川は無酸素になり、悪臭とヘドロ化するのである。次に示すように、米ぬかを含むEM団子の投入などもっての外である。

米ぬかや家庭雑排水中の有機物が分解されるのに、どのくらい酸素を消費するかについて、20〜25℃で行った実験結果を図1、2に示した。図1から、河川水1Lには約9mgの酸素が溶存していたが、3日間で酸素はすべて米ぬかの分解に消費された。9mgの酸素で分解された米ぬかはわずか7mg(炭素を50%とする)、100mg(0.1g)の米ぬかを分解するには約15Lもの水が必要になる。このように、家庭にある計量器では重さを測定できない微量の有機物量で、無酸素状態が形成されるのである。
淡水、海水各1000mLに米ぬか100mgを加えた時の溶存酸素の経時変化
図1. 淡水、海水各1000mLに米ぬか100mgを加えた時の溶存酸素の経時変化。
■、●は淡水;▲、◆は海水

家庭雑排水中の溶存酸素減少速度
図2. 家庭雑排水中の溶存酸素減少速度。日を変えて4回の実験

なお、EM菌、団子を汚染した河川に投入したら、アユがもどってきたという大本営発表をそのまま記事にしている新聞もあるが、文系卒の記者でも少しは勉強しないと、社会の木鐸としての役割は果たせない。未処理で河川に放流されていた家庭雑排水などが、徐々に処理され始めれば、河川に流入する有機物量が減少するから、河川が無酸素になる確率が減少する。さらに、植林や間伐などにより腐植土が形成されれば、雨水が保水され河川水量も増え、無酸素になる確率も減少する。河川水に酸素が存在していれば、アユが遡上するのは自然のなりゆきである。アユの遡上はEM菌の効果ではなく、未処理の雑排水などが流入しなくなったか、河川水量が増したかである。全国的に工場廃水や家庭雑排水処理率が向上しているから、読者の多くは身近の河川でアユが遡上してきたというニュースを聞いていると思う。

海においても、汚染された閉鎖湾の底層が貧、無酸素になるが、この現象も河川のヘドロ化と同様である。つまり、底層水の酸素量よりも分解される有機物の沈降量が多いからである。沈降する有機物の起源は陸からの家庭雑排水などか海で生産されるプランクトン(赤潮)である。貧、無酸素状況を解消させるには、沈降する有機物量を減らす、つまり元を断つことである。

黒色のヘドロは簡単に造ることができる。河川、沿岸海水での鉄サビ、硫酸塩、含硫黄アミノ酸濃度は高いが、100ml程度の河川水や海水を用いた実験ではこれらの絶対量が少ないから、変色(鉄サビの赤褐色から黒色)が肉眼で認識できるように鉄サビ、硫酸塩、米ぬか(家庭雑排水の代わり)、鉱物を三角ビーカーに加え、河川か海水を100ml加え、空気を遮断して放置する。

最初は河川水、海水には酸素が存在しているため、好気性バクテリアが数日〜10日以内に米ぬかを分解するため、無酸素状態になる。

酸素が存在する好気性環境下でも、休眠状態(芽胞)で存在している嫌気性バクテリアは無酸素になると、目を覚まし、増殖し始め鉄サビ、硫酸塩を還元し始める。その結果、FeS が形成され黒色のヘドロが造られるのである。要に酸素を含む好気性の河川、海水にも休眠している嫌気性バクテリアが存在しており、酸素がなくなる嫌気性の環境になると、好気性バクテリアに代わり、増殖し活動する。つまり、先に述べたように常在バクテリアが優先するのである。

戦前、戦後私は、というより多くの国民は牛肉を食する機会は少なかったが、動物性タンパク質に困らなかったのは、海、川、湖の恩恵を受けたからである(拙著、森が消えれば海も死ぬ第2版、講談社ブルーバックス、2010年)。私や三重県人にとっては、伊勢湾は命の恩人といえる。その恩恵を受けた湾が長年無酸素状態になっている。恩恵を受けた湾を昔の湾にもどしたいと多くの県民は願っているのに、海の日に無酸素状態を助長させるEM団子を14万個も湾に投げ入れているとは、湾の恩恵を受けた一人として放置できない由々しき大問題である。EM団子は米ぬかも含有されているため、米ぬかの分解に酸素が消費され、無酸素化を助長するのだ。

このように、悪臭や無酸素状態を解消するには、EM菌、団子の投入は何の効果もないし、無酸素状態を助長させることをご理解いただけたと思う。



結論

EM 菌が科学と言えないのは、冒頭で述べたようにまともな論文が存在しないからである。しかも、比嘉教授はウエブエコピュアー、新・夢に生きる(htn.to/PJQVin)で「各試験研究機関もEM研究機構の同意なしには、勝手に試験して効果を判断する権限もありません」と自らEM菌は科学でないことを認めている。科学とは、誰が行っても同じ結果が得られるから科学なのだ。

悪臭、ヘドロ化の要因は河川水や湾の底層が無酸素になるからである。無酸素を造り出す要因は家庭雑排水などに含有される有機物である。元を断つには未処理の家庭雑排水を、例えば合併浄化槽などで処理することである。また、河川水量を増やすためには、植林をして、雨水を保水する腐植土を造ることや現在、放置されているスギ、ヒノキの針葉樹の森を間伐し、腐植土を形成することである。

最後に、人間は人間を殺せないから人間であるが、戦争は人間が人間でなくなるのである。人間でなくなる戦争を可能にするであろう特定秘密保護法に賛成した某宗教団体もあるが、人を殺す戦争に賛同する宗教など存在しないから、ほんものの宗教ではないと、まともな国民は思っている。