リニア中央新幹線:ルートや駅は着々……残された疑問 JR東海社長「絶対ペイしない」と仰天発言− 毎日jp(毎日新聞)


いよいよJR東海内での分裂でしょうか。
誰が考えても、未来の日本でリニアが経済的に成り立たないのは明らかですから。
一時的に経済効果は土木業界に落ちるお金だけで、JR東海の未来の収支をプラスにするわけがありません。

記録のために全文を下記に。

 “夢”の超特急と思っていた「リニア中央新幹線」が、にわかに現実味を帯びてきた。2027年に先行開業する東京−名古屋間の詳細なルートや駅の位置が発表され、JR東海は来年度中の着工を目指す。だが山田佳臣(よしおみ)社長が「絶対ペイしない」と発言するなど、実現には多くの疑問と不安があるのだ。【大槻英二】
 ◇消費電力は新幹線の3倍 9割トンネル、避けられぬ難工事

 朝一番で東京から名古屋へ出張して会議に出席し、ランチタイムには東京に戻って同僚と打ち合わせ。午後から大阪へ営業回りに出かけ、夕方には再び東京の本社に戻って上司に報告−−スーパービジネスマンのような激務が可能になるかもしれない。

 JR東海によると、磁力で車体を約10センチ浮上させ、最高時速500キロで走るリニア中央新幹線は27年に東京・品川−名古屋間を最速40分で結んで先行開業、45年に大阪まで延伸して全線を最速67分で結ぶ計画だ。約9兆300億円に上る建設費はJR東海が全額負担する。品川−名古屋間約286キロのうち86%を地下化するのは、騒音・振動対策や用地取得手続きを簡略化するためだ。都市部では深さ40メートル以上の「大深度地下」を走り、山岳部では南アルプスを約25キロのトンネルが貫く。地上の大部分も防音フードで覆う。JR東海は「3大都市圏が1時間で結ばれ、一つの巨大都市圏が誕生する」とうたうが、計画のスケールの大きさに目がくらみそうだ。

 そもそも、なぜ今、リニアなのか。

 開業から49年が経過している東海道新幹線の大規模改修や東海地震への備えとして、東京−名古屋−大阪間の大動脈を結ぶバイパス路線が必要▽移動時間の大幅短縮によって日本経済の活性化が期待できる−−というのがJR東海の説明だ。国土交通相の諮問機関・交通政策審議会の中央新幹線小委員会を全20回中19回傍聴した千葉商科大学大学院客員教授(政策評価)の橋山礼治郎さん(73)は疑問を呈する。「どれだけの人がこれほどの時間短縮を望んでいるのか。バイパス路線が必要なら開業以来無事故で経験の蓄積がある新幹線の方が安全性や信頼性、他の新幹線と相互乗り入れができるネットワーク性に優れ、建設やエネルギーにかかるコストも安い」
巨費を投じる事業の収益性について、当のJR東海・山田社長は9月18日の記者会見で「リニアだけでは絶対にペイしない。新幹線の収入で建設費を賄って何とかやっていける」、10月17日にも「(リニアだけで)採算はとれない。新幹線と一体的に運用して会社をパンクさせずにやっていく」と発言した。広報部は「日本の大動脈を維持発展させていく使命のもと、新幹線の経年劣化と大規模災害に備えるために大動脈を二重系化する考えであり、リニア単独での投資回収を目的とする計画ではない」と説明。社全体の収入は全線開業時で15%増との「堅めの想定」を示す。

 橋山さんは「新幹線で稼いだお金をリニア建設費に充てるのは分かるが、リニアが開業しても赤字とは理解しがたい。一体運用というが新幹線がリニアに客を奪われ、さらに役割分担で新幹線が各駅停車中心になれば収益が上がらなくなるのでは。難工事や物価上昇で建設コストが膨らんだり、想定を上回る金利上昇に見舞われたりすれば経営を圧迫する。最悪、日本航空のように税金を投入する話になりかねません」と心配する。

 JR東海は「工事のペースは経営環境の変化に応じて調整する」としているが、視界は必ずしも良好ではない。

 技術的なハードルを指摘するのは鉄道ジャーナリストの梅原淳さん(48)だ。「リニアの技術は確立しているといっても、山梨の実験線(42・8キロ)で走らせることができたに過ぎません。営業運転、つまり連日朝から晩まで東京−名古屋間を約1000人の乗客を運び、折り返すとなると別の話です。それ以前に、長大な大深度地下トンネルを掘る工事は過去に例がなく、南アルプスも難工事。地質が似ているといわれる新潟県の北越急行・鍋立山(なべたちやま)トンネル(全長約9キロ)は開通までに20年以上かかっている。果たして開業に間に合うのか」

 山田社長はトンネル工事について「現実に掘り出すと、いつ何が出るか分からないが、最新の技術で乗り越える」(9月18日の記者会見)と意気込みを示したが、「トンネルは掘れたとしても、リニアの実用化が難しいとなった時には在来の新幹線を走らせるという選択肢も残しているのでは」と梅原さんはみる。
リニア計画の意義そのものを問い直すべきだとの声もある。「南アルプスにトンネルを掘ることによる地下水への影響、電磁波の人体への影響など不安な点は多い。最も疑問なのはこの国が福島第1原発事故を経験し、脱原発に向かおうという時に、東京−大阪間の走行に要する1座席あたりの消費電力が東海道新幹線の約3倍にも上る乗り物が本当に必要なのかということです」。そう語るのは市民グループ「リニア・市民ネット」代表で慶応大学名誉教授の川村晃生(てるお)さん(66)だ。「JR東海はリニアの消費電力を、大阪までの開業時に1時間あたり8本運行した場合で約74万キロワットとしている。一方、原発1基分の定格出力は約100万キロワット。全原発停止を前提とした電力各社の電力供給余力の範囲内で十分まかなえるとのことですが、葛西敬之(よしゆき)会長が原発の再稼働を主張していることと考え合わせると、リニア計画と原発はセットでは、と疑いたくなります」

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 <汽車ほど個性を軽蔑したものはない>。夏目漱石は小説「草枕」の中でそう記し、文明の利器やスピードが人間性を疎外することに警鐘を鳴らしていた。環境問題に照らして文学を研究する「環境人文学」の提唱者でもある川村さんが紹介してくれた。「高度成長期以降、日本人を支配してきた『速いことはいいことだ』との価値観には落とし穴があることに、私たちはそろそろ気づくべきです。スピードが人間の生態をはるかに超えてしまっている。なぜ毎年3万人前後の自殺者が出て、うつ病が増えているのか。スピードに追いつこうと無理をして肉体的、精神的ダメージを受けているからではないか。リニア計画を契機に『人間にとって適正なスピード』を問い直すべきです」

 取材中何度も頭をよぎったのは、石油ショックの1973年にはやったあの交通標語だ。<せまい日本そんなに急いでどこへ行く>