朝日新聞デジタル:猟師・望月秀樹さん - 山梨 - 地域


昨年だったか直接お話を伺う機会がありました。
引き締まった体、落ち着いた語り。まさに山人という方でした。
根深誠さんの本に出てくるマタギに彷彿させました。
人と野生動物との関係性(そんな言葉で表わせないでしょうが)を肌で感じているのだと感じます。
山にドングリ撒けば良いというどこぞの熊団体とは自ずと違うわけです。

そんな森が豊かな、そして絶滅危惧種が住む森に長大トンネルを掘って毎日ダンプ数百台が行ききするというリニア構想がここ早川町で進もうとしています。

以下記事
   ■駆除、時給840円 人手減少

 ――県内でも数少ないプロの猟師ですね。

 猟師の4代目です。早川町内で生まれ、小学生のころから父親の鳥撃ちについて歩きました。猟師の世界には自然に入った。銃を持てる20歳から猟師を始めました。

 ――昨シーズンの猟はいかがでしたか。

 早川町ではシカを180頭、そのうち猟期の11月15日から3月15日で100頭、残りは害獣駆除です。これとは別に長野県軽井沢の国立公園内でシカ30頭を取りました。イノシシはこのあたりでは10年ほど前からカイセン病がはやり、数が減った。取るのは年間10頭と決めています。

 ――シカの食害が問題になっています。

 自分が猟師を始めたころ、シカはほとんどいなかった。雌を撃ってはいけない決まりがあり、取っていいのは1日1頭だけでした。シカが増えたのはここ10年ほど。えさがなく里山に下りてきたという人もいますが、標高差に関係なく見かけます。繁殖力と、取っている頭数の関係だと思います。

 ――猟師も減っていますね。

 早川町に限れば、私が20歳のころは銃を持っている人が120〜130人いましたが、今は35人程度。私より若いのは6〜7人です。これだけ取っている私も今、収入の7割は道造りや家の解体工事などの建設業です。そのほか、趣味の延長でオフロード車の改造をやっています。

 ――行政の取り組みは。

 7月1日から町が鳥獣被害対策実施隊を組織しました。私も6人のうちの1人に選ばれました。でも時給840円の駆除だけでは食べていけない。ガソリン代や1発500円する弾代。老後の小遣い稼ぎにしかならない。ただ、これまでは猟友会を通すなどワンクッションありましたが、この地区は私が担当で素早く対応できる。これまでサル28頭を駆除しました。私が小学生のときは山でシイタケを栽培できたが、中学時代はサルに取られて駄目になった。20歳になったら、軒先のカキも取られた。クマも増えています。クマはヒノキの皮をむき、出る樹液をなめる。皮をぐるっとむかれると、木は死にます。

 ――獲物はどうするのでしょう。

 皆で集まり消費するか、それでも多い場合は埋めます。まれに売ってくれといわれ、分けることもある。今年度中に町でシカ肉の精肉工場をつくることになりました。

 ――印象に残る猟は。

 父がかけたワナにかかり、足先を失いながら逃げたイノシシを数年後に自分が撃ったこと。感慨深かったです。

 ――南アルプス仙丈ケ岳で今月あった環境省のシカの駆除には参加しましたか。

 声がかかりませんでした。東京の会社に任せ、そこが選ぶのではないか。天候もあっ
たかもしれないが、結局1頭も取れなかった。

 ――猟師減少に歯止めはかかるでしょうか。

 娘2人ですが、16歳の次女が「山賊ダイアリー」という漫画で、最近、猟師に興味を持った。「よしよし」という感じです。ほかの地域でも女性猟師が出ています。NPOと組み猟師を養成する仕組みも考えています。将来に向け猟師を増やしたいが、銃を扱うのでだれでもいいわけではない。ルールを守れる、冷静な人じゃないとね。

《略歴》

 もちづき・ひでき 1967年生まれ。早川町で続く猟師一家の4代目。県内でも数少ないプロの猟師。参加者と一緒に森を歩いて早川町の自然の魅力を伝える「ジビエツアー」の講師も務めるほか、後進の育成や獲物のシカ肉の利用についても中心的な存在。

《取材を終えて》

   ◇後継者の養成が急務

 数年前、神奈川県厚木市で取材をしたときは、イノシシ・シカ被害の主な原因は過疎化で荒れた里山に野生動物が進出したことだった。

 だが、望月さんから聞く早川町の実態は、自然の繁殖力に人間が圧倒される姿だ。それでも、鳥獣被害対策実施隊を町が組織し、被害に対し迅速な対応をとれるようにしたことは一歩前進だ。ただ、賃金は原則、時給840円で1日4時間、1カ月10日程度では「食べていけない」。

 南アルプス・仙丈ケ岳周辺でのシカの駆除について聞いたときは、直接、不満の言葉はなかったが、地元の腕の立つ猟師が呼ばれないことへの悔しさが、伝わってきた。

 猟をする人の年齢が上がり、若い後継者の養成も急務だ。シカの精肉工場の設置に町は9月補正予算で2千万円をつけた。食材とすることは自然への尊敬という意味でも望ましい。軌道に乗せるためにも「原料」を安定供給する望月さんたちの役割は大きい。(渡辺嘉三)