図書館本

影浦氏(1964-、東大教授)は島薗進氏や鬼頭秀一氏らと積極的に原発震災とアカデミズムの問題点を指摘し続けている。

原発震災に際して、内閣府顧問が「安全、安心の前にあるもの、それが信頼だ」と発言したと記憶している。

信頼なくして安全も安心も存在しない。そう捉えても良いと思う。

3.11以降の大学はまさに知の府から無知の府にトランスフォームした様にさえ見える。
専門家とか学者と称される、ある意味において権威の象徴が実はまったくのピエロだったことが判明したわけだ。
佐高信さんが良く書いているが、専門馬鹿は専門もバカ。
あるいは安冨歩さんの東大話法に象徴されるような東大教授の群衆。

科学者あるいは専門家の社会的責任とは何か、そんな初等あるいはプリミティブな市民の声に答えられないアカデミズムの問題点を影浦さんは綴っている。

備忘録的メモ
東大付属病院 中川恵一氏:震災1年後、「放射線パニック」は収まる気配がありません。放射線被ばくによる健康被害は「今のところゼロ」です。たばこの癌と放射能によるがんの比率を同一視
山下俊一氏:200万人の福島県民全員です。科学界に記録を打ち立てる大規模な研究になります。
一ノ瀬正樹氏(東大人文社会系教授):論考の内容的な稚拙さ

少なからぬ専門家の発言が、その意図や内容の事実的正しさとは別に、原発事故という極めて重大な事態を前に、その責任関係の明確化や本来あるべき具体的な対処を促すのではなく、むしろそれを押しとどめ、さらには被害者である市民を問題化する方向で機能してしまったことにあります。

専門的知見は多くの場合、包括的・体系的でなく、恣意的に持ち出される。

本書が、決して懐かしさに変わることのない後悔を背負ってしまうような行為あるいは無作為の手前で立ち止まる手がかりに、わずかでもなれば幸いです。p98





岩波書店からの紹介

目 次
第1章 地に墜ちた信頼?
【コラム】科学・科学者・専門家
第2章 事実としても科学としても誤った発言の跋扈
2.1 「『想定外』でした……」
2.2 私が正しいと思うことは私が正しいと思っているがゆえに正しい
2.3 私にわからないことは存在しない
2.4 現実とは私が想像することである
2.5 私たちが正しいと思っていることは私たちが正しいと思っているがゆえに正しい
2.6 事故から目を逸らす最善の手段は既存の知識で事故を見ることである
第3章 社会的に適切さを欠いた発言はどのようになされてきたか
3.1 私が(無意識に)妥当と思っていることは,皆に,そして社会に,妥当する
3.2 私の知らないことは存在しないし,私は法律も法的考え方も法の理念も知らない.私は専門家なのだから
3.3 ボクこの話をする,だってしたいんだもの,ボクは専門家だからみんな聞くんだよ
インターミッション 信頼とその条件
コミュニケーションと状況の変更
第4章 どのようにして信頼を支える基盤が崩壊したのか
4.1 失敗したのは私たちだが,問題は皆さんにある
4.2 心配ないと言っているのに心配する皆さんがおかしい,理由を私が説明してあげよう
第5章 コミュニケーションの再配置へ向けて
「東京大学環境放射線情報」をめぐって(押川正毅)
信頼の条件――原発事故をめぐることば (岩波科学ライブラリー)
信頼の条件――原発事故をめぐることば (岩波科学ライブラリー) [単行本(ソフトカバー)]