図書館本

田原さん(1934-)の人生自己評伝であろう。
幼少期の戦争体験が養老孟司さんに似ていると感じた、調べてみたら養老先生より3歳年上なんだね。
一夜にして教師の言うことが180度変わった事に対する違和感。皆が軍国少年だった時代を生きたのでしょう。
そして現役でやってこれたのは好奇心と脳天気だと括っている。

他著でもすでに語られているけど、テレ東(当時東京12チャンネル)時代のやりたい放題的な取材と番組制作が面白い。アメリカでも日本でも自らが本番(日本初のAV男優とか)までして(詳しく書かれている)、録画取材している。
また、弱い立場に追い込まれた人間に対する田原さんなりの評価が興味深い。例えば、ライブドアの堀江さん、鈴木宗男さん、小沢一一郎さん、田中角栄さんなどだ。どれもが国策捜査で冤罪だと思われているのだろう。

そして取材でも番組でも、すべての自分をさらけ出すと書く、だから相手も心を開いて本音を語ると。また人に会うのが最大の趣味だとも。さらに嘘をつかないことだと。欠席裁判もしないと。


面白いのは、自分自身も女性問題を抱えていたので、女性問題に関しては暴かないと決めていると。

また田原さんの歴史観であるが、彼が取材を通じて至った結論は、
日露戦争は日本が勝ったというよりロシアが国内革命で内部分裂のために負けた。
満州事変は侵略戦争、日中戦争は政府に侵略の意図はなかった。
太平洋戦争は、結局、だれも決断しなかった戦争。情報収集能力がお粗末で、いわば「空気」ではじめた
戦争。

一番の本書(他著で既に書かれているかもしれないが)での肝は、東京12チャンネルを辞める経緯だろう。
彼のドキュメンタリー記事の雑誌掲載、その後の単行本化が最終的には広告代理店の電通により東京12チャンネルに圧力がかかり、辞めざるを得なくなったのだ。
その本が「原子力戦争」である。この本とその後映画化された「原子力戦争」はお勧めである。
反原発の住民運動を電通が対抗するという広報活動である。

目次

序章 塀の上を走れ
第一章 軍国少年
 敗戦の日/田原商店/自由画帳/黒板の占領地図/祖母の教え「運・鈍・根」/反骨の芽/軍国少年/悲惨な戦争/教師の変節/野球と相撲と缶詰と
第二章 作家志願
 教師いじめ/ないないづくしの新制中学/弁当はお粥/行灯破り/初恋/小説を書く/生きるって何だろう/一六歳の抵抗/アジ演説/瀬戸際の田原家/作家志願
第三章 ダメダメ社員が行く
 どんでん返し/末子と出会う/出社拒否/ダメダメ社員/雑踏のキャンパス/徒労と挫折と/さらば交通公社/タヌキ先生/サルトルと森鴎外/就職活動の失敗
第四章 落ちこぼれ撮影助手
 五〇日でお払い箱/安保反対デモ/岩波の仲間たち/従姉と晴れて結婚/ヌーベルバーグ/構成のアルバイト/岩波映画退社
第五章 テレビディレクター
 こんばんは21世紀/東京12チャンネル/未知への挑戦/愛よ よみがえれ/世界ドキュメンタリー会議/仕事を干される/日本1966/ゴールデン街人脈/危険なディレクター/村上節子と京都旅行/右翼と全共闘/ドキュメンタリー青春/出発/片腕の俳優/バリケードの中のジャズ/あらかじめ失われた恋人たちよ/独裁者にはなれなかった/ドキュメンタリーをつくる/映画「キャロル」の顛末/UFO事件/末子が乳ガンに/原子力戦争/虎の尾を踏んだ田中角栄/わが青春の12チャンネル
第六章 フリーの書き手として
 発病〜語句の意味がわからない/通貨マフィア戦争/断るなら、降りろ/霞が関の獅子たち/田中角栄インタビュー/尾行刑事、現る!/マイコン・ウォーズ/裏のドン/末子、天国へ
第七章 「朝生」と「サンプロ」
 「朝まで生テレビ!」誕生/「朝生」の舞台裏/出演者たち/タブーに挑む/昭和天皇論/「サンデープロジェクト」/紳助、都はるみ、高坂正堯/湾岸戦争と「サンプロ」の転換/村上節子と結婚/海部俊樹首相退陣へ/宮沢喜一首相とデスマッチ
第八章 権力の内部へ
 激ヤセ田原はガン?/右翼との攻防/橋本龍太郎首相退陣へ/青の会/節子、乳ガンに/日本一危険な番組/言葉の天才・小泉純一郎/闘病の日々/喪失の夏/首相の御意見番/不運の宰相・安倍晋三
第九章 喜寿の遺言

著作目録
塀の上を走れ――田原総一朗自伝
塀の上を走れ――田原総一朗自伝 [単行本(ソフトカバー)]