世界に誇るリニア新幹線、実用化へ大きな一歩 JR東海の戦略は? (SankeiBiz) - Yahoo!ニュース


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世界に誇るリニア新幹線、実用化へ大きな一歩 JR東海の戦略は?

SankeiBiz 12月11日(火)9時34分配信
世界に誇るリニア新幹線、実用化へ大きな一歩 JR東海の戦略は?
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JR東海の旅客運輸収入(写真:フジサンケイビジネスアイ)

 日本が世界に誇る「夢の高速鉄道技術」が来年、実用化に向けて大きな一歩を踏み出す。2027年に東京−名古屋間の開業を目指しているリニア中央新幹線計画が、山梨県の実験線でいよいよ営業仕様車両による走行試験に入り、14年度の建設着工への準備も本格化する。

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 計画は国の財政が厳しい中、早期着工にこだわったJR東海が事業費を全額負担する異例の方式で進む。ただ、16日投開票の衆院選では、防災や経済対策の観点から公共事業の推進を掲げる政党もあり、新たな政権の枠組みによってはJR東海のリニア戦略も影響を受けるかもしれない。

 「今は8合目。頂上へ行くには、これからが大事なところ」。先月22日、JR東海の山梨リニア実験線車両基地(山梨県都留(つる)市)に、営業仕様のリニア新幹線新車両「L0(エルゼロ)系」が搬入される様子を眺めながら、遠藤泰和執行役員山梨実験センター所長は改めて気を引き締めた。

 JR東海は、1997年からリニアの実験を開始。同年中に営業運転目標の最高時速500キロをクリアし、2003年には鉄道で世界最高の時速581キロを達成した。今回の「L0系」は「車体は最新型新幹線『N700系』を踏襲しつつ、過去15年間の実験のノウハウや技術を全て入れ込んだ」(遠藤センター所長)という自信作。山田佳臣社長は「来年冬までに(走行試験を)再開できる自信がある」と話し、まずは5両編成(全長約130メートル)、その後12両編成(同約300メートル)で走行試験を行い、実用化へ最終確認を行う考えだ。

 東京−名古屋間を約40分、45年予定の全線開通時には東京−大阪を約1時間で結ぶ超電導リニアモーターカーは、電流によって生まれた磁力で約10センチ車体が浮く次世代の“飛ぶ鉄道”。夢の技術とされてきたが、世界初の商用化は時間の問題だ。もっとも、その時間がなかなか読めない。東京−大阪間のリニア全線開通に要する総事業費は約9兆300億円と試算されており、計画の進捗(しんちょく)はこの巨額負担を「すべて自己資金でまかなう」(山田社長)JR東海の業績に大きく左右される。

 実際、リーマン・ショック後の急激な景気悪化で売上高(単体)の8割以上を稼ぐ東海道新幹線の旅客需要が低迷。2009年度の新幹線収入が前年度比8%減と、民営化以来最大の落ち込みとなったことを受け、同社は10年に当初25年としていた開業時期を2年延期した経緯がある。日本の東西を結ぶ旅客輸送の大動脈として年間約1兆円の収入を上げる東海道新幹線は、他のJR各社がうらやむ「ドル箱」。だが1964年の開業からほぼ半世紀がたち、老朽化のリスクが高まっている。すでに過密ダイヤが組まれ、輸送力拡大による将来の大幅な料金収入の引き上げも容易ではない。

 東海地震の災害リスクも抱える中、「第2の大動脈」としてバイパスルートを担い、旅客機並みの速さで新たな付加価値も提案できるリニア計画は、東海道新幹線頼みからの脱皮を目指すJR東海の成長戦略の要だ。その実現時期が、業績次第で遅れかねない点は経営の不安材料で、景気変動への対応力が大きな課題になっている。需要の順調な回復を受けて、2013年3月期の旅客運輸収入は1兆1538億円と、リーマン前の水準にほぼ戻る見通し。しかし先の長い計画だけに、「建設費だけでなく、運営面も含めたコスト(経費)を1円でも安くしていくことが大事だ」(遠藤センター長)と、現場は事業負担の軽減に知恵を絞る。一方、中央新幹線の整備計画が異例の民間主導方式となった要因でもある国の公共事業予算の縮減の流れは、今回の衆院選を機に変わる可能性がある。

 災害に強い国づくりが大きな政策課題に浮上する中、自民党は防災と景気てこ入れの両面で公共事業の推進に前向き。公明党も10年間で100兆円を「防災・減災」向けの公共事業に投じる政策を掲げる。民主党や日本維新の会、共産党、みんなの党などは「バラマキ」だと批判しているが、選挙後の政権の枠組みによっては公共事業の推進力は強まる。そうなれば政府の後押しでリニア計画の確度は高まる期待がある。

 半面、防災や景気対策などの面から政治が計画にさまざまな注文を付ければ、民間主導の自由度が低下し、JR東海の戦略が制約を受ける恐れもある。国土交通省交通政策審議会の分析によると、リニア新幹線の全面開業による利便性向上の効果(便益)は1年当たり7100億円、消費刺激による生産の押し上げ効果は8700億円。巨額の建設投資を含め、計画の行方は日本の競争力回復にも一定の影響力を持つ。それだけに、たとえ民間主導でも、新たな政権のリニア計画へのスタンスは無視できない。政治情勢を踏まえ、今後1、2年がリニア計画とJR東海の将来を占う大きな節目となりそうだ。(西川博明)