奪われる日本の森 平野秀樹 安田喜憲 新潮社 2010
図書館本

平野氏(1954-)は農水省に属した経験があり、林野庁経営企画課長や中部森林管理局長を歴任と奥付にある。また安田氏(1946-)は国際日本文化研究センター教授とのこと。(出版時)

ざっくりまず書くと、安田氏の書かれている部分は本書には関係が無い様に思う。愛国心という文脈では良いのかもしれませんが。国の法整備とこれまでの林野行政がダメだったという事を自ら内部告発しているようにも思います。水という安全保障問題でもある資源、国益をどう考えるかという問題でもあるのでしょう。

平野氏はバブル期の日本の海外投資に基づく国外の土地購入や投機に関しては現地の方の不満や批判は理解出来るという立場であろう。そして、日本の森や水源地が外国資本に押さえられるのは許せないという立場。

備忘録的メモ
大面積皆伐がなされた跡地が植林されることもなく、安価で転売に次ぐ転売が繰り返され、つまり「山ころがし」され、最終的な所有者は地元とは全く縁遠い存在となっている。防災上由々しき事態だ。p42 (特に転売に関する例は示されていない) 学識経験者は全国の植林放棄地は統計の10倍あると断言する(学識経験者とは?)

林地の場合、農地法のような制限がない。唯一のルールは売買成立後、2週間以内に市町村を経由して知事あてに届け出を行くことだけである。p81 (であるなら、現状調査は可能では?林野庁でなぜ調べないのだろう?なぜ法制化してこなかったのだろう)

日本の地籍調査は1951年に関し、しかし52%が未了。太閤検地以降、手つかずのままの土地がある。p92 (これも林野庁は何もしなかったのでしょうか?)

問題はバランスである。p98 (外資とボーダレス化した経済問題において。まあそうでしょうね)

2030年の日本は、社会資本インフラの更新・維持・補修コストが新規投資を含めた全体コストの過半を越え、新規投資にはしだいに振り向けられなくなっていくと推計されている。今まで以上に過疎地および小都市からの撤退が続くだろう。p122(そうでしょうね)

森林に関する政策提言: 地籍の確定、林地市場の公開化、売買規制と公有林化、林業再生・辺境再生の4点 p128 (良いですね、是非! でもこれまで何故やらなかったのでしょう?) 地籍の確定なんてGPSで比較的直ぐに出来そうですが。

争いになる前にきちんとしたルール化を図ることが急務である。それは法治国家として最低限やっておかなければならない。これが本書の主張である。p158 ( まったく異論はありませんが、これまでの反省無くして前進もないと思うのです)
あとがきで、各専門分野についてご教示していただいた方のリストがある、有名林家の方の名前があるのだが、私がお話を聞いた時には外資の森林購入は殆どないと言っていたのだが。。。(2010年)

安田氏の論
ニッポンの漂流の原因は、地政学の欠如
本州以南の森は、縄文時代以来、3000年かけて30%の森が破壊されただけである。北海道は140年の間に全道の40%近くの森が消滅。
北海道は右足をクラーク博士、左足を縄文文化と稲作漁撈文明においている。中略 だが地球環境危機のこの時代に、もうクラーク博士の視点(近代欧米文明をさすらしい)だけではやっていけないのではないか。
日本の森が一神教のキリスト教を受け入れることを拒否したからである。(伝統的な宗教心を温存出来た理由)
スギが金になるという、まさに市場原理主義と同様な考えを林野行政に導入したために引き起こされた。その結果が現在の林野の荒廃と花粉症の頻発である。この林野行政における大失敗は、伝統的な日本の森の文化を切り捨てたために引き起こされた。(この部分は同意しますが、花粉症まで出さなくても(笑)
この世界には、そんなことを微塵も思わない人がいる。それは畑作牧畜民の社会で生まれた市場原理主義者である。(本当ですか???)

奪われる日本の森―外資が水資源を狙っている
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