悲しむ力 中下大樹 朝日新聞出版 2011

ハンセン病の講演会を開催した時に知り合った中下さん、その後facebook等でもお付き合いさせていただいている。本を出版されたとの事で早速購入(印税は全額今回の震災復興支援に使うとの事)。

通勤電車や公共の場では読まない方が良いと思います。
号泣場面多数です。でも、読み終えた時に清々しさ。

中下さん(1975−)はお坊さんである。ホスピスで末期がん患者数百人を看取り、その後、超宗派寺院ネットワーク「寺ネット、サンガ」を設立した。
葬式仏教に有る意味、なり下がっている現状に違和感を持つ市民も僧侶も多い。死を商売にすることに異を唱えないが、中下さんの様な死に至る過程で僧侶として、一人の人間としての活動には深く感銘を受ける。
3章からなる本書である。
第一章ではホスピスでの経験を、第2章では孤立の現場としての孤独な死を見つめ、そして第3章では被災地(3.11以降)での経験を綴っている。
また中下さんご自身の生い立ちも吐露されていて、これまでのご苦労や葛藤が垣間見えます。

さて本書。
自分の中にある悲しみをじっと見つめ、静かに向き合う。そこから、真の力が生まれてきます。「静かに己を悲しむこころより、真実の力は生る」by武内了温 

人間が与えられた普遍としての生老病死の四苦に愛別離苦(愛するひととの別れ)、怨憎会苦(憎むべき存在との出会い)、求不得苦(求めても得られないこと)、五蘊盛苦(病や性欲など人としての肉体と精神をもつ故の苦悩)の四苦をあわせて八苦。この中に生きざるを得ないこと。そして「諸行無常」 明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは by 親鸞 

孤独死や無縁社会と言葉が氾濫している。孤独な死は人間としては当たり前であり、むしろ孤立した死が問題なのであると指摘する。都会の中で誰にも看取られる事なく死んでいく多くの現場での中下さんの活動が書かれている。

そして被災地での活動、ご自身がうつ状態になるほどの現地での光景。
悼む人、中下大樹という被災者と感情を同期出来る人間だからこそ言えるのである「悲しむ力」と。
他者との関係性の中でしか生きられない人間の在り方を、全ての宗教に共通な「愛とおもいやり」(個人的な僕の思いこみかも)を基に、より多くの人達のために祈り続け、話し続け、行動する一人の男が中下大樹なのだと思う。
生まれて死ぬ人間、ならば良く生きる。食うために生きるのではなく、良く生きるために食う人間にならねばならないのだと再確認した一冊である。非被災者として何が出来るのか、何をせねばいけないかの、自分自身の生き方もあわせて考えてみなければいけないと素直に思った。
読み終えてふと浮かんだ言葉;養老先生の都市化と脳化社会、天童荒太「悼む人」

悲しむ力 2000人の死を見た僧侶が伝える30の言葉
悲しむ力 2000人の死を見た僧侶が伝える30の言葉
クチコミを見る