原発と日本の未来 吉岡斉 岩波ブックレット 2011年2月8日第1刷  原発事故の直前に出版

以前職場に講演会で来られた吉岡先生のお話を聞いて原発を取り巻く魑魅魍魎を聞いていた。そして今回の震災の後に本書を読んでみた。

吉岡先生(1953-)は東大理学部を出られ、九州大学の教授、その後副学長をしておられる。また内閣府原子力委員会専門員をされていた。(現在は福島第1原発事故 調査・検証委員でもある)


講演会の時にメモ(2007年)いや〜〜〜怖いですね。政策という文脈での意思決定のプロセス。吉岡先生ご自身は「御用学者」と自分を位置づけ、反対意見も入れておかねばならないという審議会に参加され、多くの場合、原発反対の立場であるという。そして今日日本の原子力政策は「原子力介護プラン」と呼ぶに相応しいと。

そして現在さらに「原子力発電永久介護プラン」「電力業界介護プラン」に進んでいると指摘している。2017年度までに13基の新増設が行われるという。

吉岡先生が名づけた「核の四面体構造」と言うのがある。(4者間の談合による政策決定)

原子力発電事業の関わる4つの主役級ステイクホルダーが、一体化した構造を指し、政治家、政府(主として所轄官庁)、電力業界、地方自治体の4者である。

結局経済的コストを負担するのは国民であり、その国民が良く分からないところで政策が決まっていく。今回の柏崎刈羽原子力発電所の震災が、まさに政策への国民不在を表舞台に表わしたのだろう。原子力の問題は単なるコストの問題だけでなく、今後の日本人の生き方にも関わるのだろう、節操無き電力使用は結局国民一人一人に災難として降りかかるのだろう。

講演時に吉岡先生は岩波の科学の別刷をくださった。

http://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo200711.html



さて、本書である。

欧州軽水炉の挫折として原子力産業の長期低迷によりメーカーの技術力が低下しており(設計も複雑)、原子炉の完成予定が大幅に遅れている。

中国の動向(国内開発と海外からの導入)、インドの動向(核兵器不拡散条約に未加入、包括的核実験禁止条約も非批准、アメリカ、フランス、ロシアの原子炉導入の動き)に注意が必要。

日本の商業用原子炉の棲み分け(社会主義的計画経済):アメリカGE社、建設を東芝・日立(東京、中部、東北、北陸、中国)  アメリカWH社、建設を三菱重工(関西、九州、四国、北海道)



六ヶ所村再処理工場稼働の目的:その1.機微核技術(軍事転用の観点から危険な技術)を開発利用する権益を日本が保持し続けること。核兵器保有国以外で、ウラン濃縮、再処理、高速増殖炉などの技術を保有するのは日本だけ。 その2.日本の原発システム全体を破綻させないこと。(全国の原発での核燃料貯蔵ブールが満杯となり原子炉を停止せざるを得ない)

「国家安全保障のための原子力」の公理というのは、日本は核武装は差し控えるが、核武装のための技術的、産業的な潜在能力を保持する方針をとり、それを日本の安全保障政策の主要な一環とするということである。それによって核兵器の保持を安全保障の基本に据えるアメリカと、日本の両国の軍事的同盟の安定性が担保されている。p43



費用対効果や機会費用において疑問符が付く原子力関係事業は多い。しかし、それを背負う民間業者には種々の経済的支援措置が提供されてきた。「保護と忠誠」「国策民営」

電力自由化によるゆらぎと、さらなる「国策民営」体制によるゆらぎの修復(第二再処理工場建設、日本型次世代軽水炉開発、高速増殖炉完成の前倒し)

官民一体オールジャパン方式の不条理(ベトナムへの原子炉輸出問題、市場原理から離れた議論)



むすび

政府の揚げる原子力発電推進の主たる根拠は、原子力発電はエネルギーの供給安定性を高めるという論点や、温室効果ガス排出削減をとおして環境保全に役立つという論点である。政策文書においては、ここから直ちに原子力発電の維持・拡大の必要性が結論づけられ、その実現のためのありとあらゆる政策措置が動員される。この言説の最大の欠点は、その論理構造である。原子力発電が安定供給特性と環境特性においいて、果たして優れているかどうかは別問題として、原子力発電の個別の優れた特性のみを列挙して、そこから直ちに総論的・包括的な推進という結論を導くことは、論理的に誤っている。p61

火力発電に対しては、高い税率の炭素税や、厳しく上限のついた排出量取引制度を導入すべきである。他方、原子力発電に対しては、放射線・放射能封じ込めの対策コストを、政府が肩代わりするのではなく事業者に負担させる仕組みの導入が必要である。この領域では現在、手厚い政府負担が行われているので、それを原則として全廃することが適切である。また原子力損害賠償法についても、政府負担を全廃するか、または過酷事故を起こした電気事業者を清算し、それで被害者に支払えない分についてのみ実施するよう見直す必要がある。p63

政府が原子力発電を優遇する正当な理由は、その諸特性を一覧する限り乏しい。政府が税金により負担してきた一連の支援(立地支援、研究開発費、安全規制コスト支援、損害賠償支援等)のコストは本来全て事業者によって負担されるべきであり、それがエネルギー間の公正な競争条件を確保する上で不可欠である。このように原子力発電の新増設や、使用済み燃料の全量再処理や、高速増殖炉実用化路線の護持を望むのならば、政府が万全の保安・安全規制を講じた上で全面的な自己責任においてやっていただくしかないだろう。

それが自由で公正な社会の当然のルールである。p63

原発と日本の未来――原子力は温暖化対策の切り札か (岩波ブックレット)
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