山梨県立大学学長の伊藤洋先生のブログより

http://blogs.yahoo.co.jp/kendaigakucho/20309145.html
http://blogs.yahoo.co.jp/kendaigakucho/20319236.html

どうぞ、読んでください。

山梨県民の皆様、他県でリニアが予定されている住民の皆様、
県知事さん、県の職員の皆さん。
自分の頭で良く考えてみてください。


個人の備忘録的に残しておきます。

リスク方程式

先に本欄で、
<リスク=事故の発生確率×発生後の損失の総量>
なるリスク方程式を示しました。これを適用すると多くの計画が事前に評価できるようになります。
実にタイムリーなので、国土交通省交通政策審議会・中央新幹線小委員会が建設着工を承認したJR東海のリニア中央エクスプレスを例にとってこのシステムリスクを検討してみましょう。超高速鉄道ですから事故と言えば列車事故が心配になりますが、これについてはここではあえて考えません。鉄道事故は原発事故のように「発生後の損失の総量が無限大」にはならないからです。と言いますのは、列車事故はそれがどれほど悲しむべき大惨事であっても、一応、一組の列車の事故として空間的にも時間的にも局限されるからです。
事故ではなくてここで着目しなくてはいけない「損失の総量」とは、システムの完成に投下される過大な出費とそれによる「事業の失敗=経営破綻」の危険です。この事業、2045年までに総工費9兆300億円を投入して東京・大阪間にほぼ直線のガイドウェイを敷設するのだそうですが、今まで、一事業に限定してこのような巨額の投資をした<民間事業>の例は全くありません。まず、2027年までに東京・名古屋間を5兆円の投資によって開通させるそうですが、それすらも完成までのむこう15年間JR東海にはびた一文の収入がありません。収入どころか金利の支払いだけが重くのしかかります。
加えて、この9兆円という総工費、嘘も隠しもない誠実に積み上げた数値であろうとは思いますが、着工から完成まで机上の予定でも32年。こういう一世代以上にも及ぶ長期の大事業が予定金額でおさまった歴史は無数にある土木事業でただの一つもありません。明治の丹那トンネル工事では頭初予算の6.5倍かかっています。近くは本四架橋。はるかに短い工期にもかかわらず3本が3本とも5,000億円の頭初予算が1兆円余に、長良川河口堰は6.35倍、八ッ場ダムにいたっては天文学的倍率を要して未だ終了しません。しかしこれらはいずれも国家事業でしたから、合わない帳尻を強引に合わせることができました。しかし、リニア計画は民間事業。失敗は、畢竟、企業倒産で終わるしかありません。
しかし、鉄道事業は准公共事業であってみれば倒産して市場から撤退するというわけにはいきません。JR東海は、東海道新幹線をはじめ大動脈や小動脈、日本国の生命に係る鉄路を所有する大切な会社です。これが無くなったら、これによる<発生後の損失の総量>は間違いなく無限大です。
リニア中央エクスプレスは、リスク方程式の右辺=<資金ショート>という「事故の発生確率」をゼロにしない限り、<大動脈破裂>という無限大のリスクにつながる危険な賭けだと承知しなくてはなりません。上記の国土交通省交通政策審議会・中央新幹線小委員会の委員諸氏は、そこまで案じて着工許可を下されたのだろうとは思いますが、着工までの2年間慎重・真剣・徹底的検討を期待したいと思います。



リニア中央エクスプレスにとって最大のコンペチターは誰でしょう?最大にして最強のライバル、それはなんと言っても自身が所有する「東海道新幹線」です。1964年開通以来無事故の信頼性は鉄道史上まれにみる快挙。国民的信頼抜群の交通機関です。
東海道新幹線は東京と大阪を結んで、無くてはならない日本国の大動脈を形成しています。しかし、その輸送量は2008年の460億人キロをピークにリーマンショック後漸減傾向にあり、実は乗車率(座席利用率)も意外に低率の56%です。日本は、長期にわたる人口減少期に入りました。また、東海道新幹線はビジネス鉄道で、企業活動が低迷すると乗車率が敏感に下がります。つまり、人口が増加しかつ日本経済が活性化しないと乗車率の向上はかないません。JALの経営危機にみるように、航空業なら搭乗率56%では経営は成り立ちません。しかし、そこは飛行機と違って地上を走る鉄道のこと、新幹線は飛行機に比べてはるかにエネルギー効率が高いために採算が合って、乗車率56%でもJR東海の唯一最大の稼ぎ頭になっています。
ところが、ここにもう一本リニア中央エクスプレスが市場獲得競争に名乗りを上げることになりました。当然、乗客の配分比は利便性と運賃と目的地とを勘案しながら合理的に二手に分かれて乗車することになるでしょう。ここで、新規需要の発生に期待したいのですが、国家経済の現状からみてこれはほとんど不可能だと心得るべきです(新規需要は数字上でいくらでも操作できます。その過剰な予測で失敗した公共事業は本四架橋・東京湾アクアライン・グリーンピア等々枚挙にいとまがありません)。
JR東海の説明では、仝醜圓療豎て賛郡汗と輸送力を同一に保つ、⊃契の運賃は現在の新幹線に1,000円程度上乗せしただけでやれると説明しています。,蓮東海道新幹線の全面補修期間中の代替機能を確保するためとされています。△蓮△砲錣に信じ難い数値ではありますが、経営者がそうするというのですからそうだとするしかありません。しかし、早くてそんなに安いのならと、460億人キロの殆どの乗客がリニア新幹線に乗り移ったと仮定して、それでも乗車率は50%以下にしかなりません(新横浜と三河安城間、および岐阜羽島・京都間の乗客は乗らないので、乗車率はもっと低いだろうが)。ジェット機と同じように空中を飛行するリニアですから、そのエネルギー効率では採算は得られるはずがありません。ジェット機は、可能な限りエネルギー消費を減らそうと空気の薄い成層圏内にまで空路を取りますが、リニアは地上10センチと最も厚い空気と、時には向かい風と、ほとんどトンネルのために地下鉄風を右に左に押しっくらしながら走行します。加えて、航空業では持たない線路や駅舎という資産を所有しなくてはならず、それゆえそれをメンテナンスしなくてはなりません。
一方、客の激減した新幹線は補修どころか営業を廃止するしかありません。これでは、鉄道会社にとってドル箱は消失です。東海道新幹線が経営努力をし、中国新幹線級の486/h鉄輪式の高速列車を導入でもしますと、他の新幹線にまたがって乗り継ぐような旅行客は乗り換えの面倒を嫌がってリニアには乗りません。かくのごとく思考が一回りして、リニア新幹線の方が無用の長物になり下がることになるでしょう。
つまり、リニアモーターカーの究極の泣き所は、最も流体力学的に抵抗の大きい空気中を飛行機に匹敵する速度で走らなくてはならないこと、距離の2乗に反比例する電磁力によって動力を得るのにもかかわらず普通の(ロータリー)モーターと違ってローターとステーターの空隙距離が極めて大きい(リニア)モーターであるために効率が極端に悪いところだと思います。