再分配の厚生分析 小塩隆士 日本評論社 2010
副題:公平と効率を問う

図書館本

小塩氏(1960− 東大卒、経産省、現一橋大教授)の幸福や格差の経済学。
ハッキリ言って、出てくる計算式はまったく理解出来ないので、その計算式から導きだされたとする結論あるいは考察だけをメモしておきたい。
経済成長がおもわしく無い時、再分配の問題はゼロサムゲームの色彩を強めると指摘する。
であるならば、どの様な政策が幸福度を上昇させるのか、あるいは格差の開きを小さくするのかという問題意識が提出されるのだろう。
筆者の提出する問題として
所得格差は拡大しているのか?
貧困は進んでいるのか?
日本人全体としての幸せ感は変化しているのか?
等々が挙げられている。

所得格差に関しては所得が一様に減少しているが特に2極化が進んではいない(小泉改革前後でも)。勝ち組、負け組を明確化出来ない。
再分配政策の格差縮小・貧困軽減効果のかなりの部分は高齢層において発生し、しかもその効果の大部分は現役層から高齢層への所得移転で説明され、若年・中年層における効果は限定的である。
公教育・私教育、あるいはエリート育成とボトムアップの評価・政策は難しい?
(公教育の期間を調整することにより、私教育よりも社会全体の効率性を上げる事が可能)
税を財源とした無償で提供する公教育システムは、能力が低い個人の過剰教育を促す。
公平性の観点からは、私教育システムと公教育システムの優劣はつけがたい。(結局混合システムが良いようだ)
幸福度と所得格差に関して(生活満足度)
幸福研究が急速に進展している。幸福度は自分の所得が自分と経済社会的な属性がよく似た社会グループ、すなわち準拠グループ(リファレンス)の平均所得とどのような相対的関係にあるかによって大きく左右される。
所得以外の要因としては、失業や不安定な就業状態。学歴、婚姻関係、年齢、子供数等。
子供の貧困はその後の人生に無視できない影響を持続的に及ぼしている。

おわりにの項で筆者は吐露する。
本書のトーンは、極めて暗い。読んでいて、気分が滅入ってしまった読者も多いと思う。筆者は、必要以上に悲観的になっているかもしれない。しかし、根拠のない無責任な楽観論を振りかざしても仕方ない。そこで本書では、客観的なデータや理論分析に基づいて議論に徹してきたが、筆者自身も書き終えたいま、暗い気分になっている。と。
そして、低成長下、限られた財政資源を優先的に投入すべき際は分政策があるとすれば、それは子供の貧困解消だと筆者は考える、と。

本書の定価3500円はちと高いと思う。国立大学法人の職員が書いているのだから、その業績は限りなく安価で国民に提供されるべきであろう。これも再分配に関する公平効率性だと思う(笑)



再分配の厚生分析  公平と効率を問う
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