告発の虚塔 江上剛 幻冬舎 2011
献本

江上さん(1954−)という作家が、元銀行マンであり、まさに本書に描き出されるような銀行内での内部抗争や不正事件を自らが体験していたことは、高杉良氏の「金融腐蝕列島」で江上さんがモデルであることは知っていた。そして、その大分あとに、今度はご自身が日本振興銀行の建て直しを請われて社長になられた。今現在は退任されて、また作家に戻られているのであろう。
さて、本書である、なぜかどこかの銀行に似ていると思うのは考えすぎだろうか。某ホールディングスと言う名の組織の下に、証券業務を扱う会社と銀行業務を扱う会社、そのそれぞれに社長だの頭取がいる。そしの、利己的にうごめく人間関係と、組織あるいは社会にためにと利他的に動く人間関係がある。
本書では頭取の下ネタスキャンダルというありがちな事件を題材にはしているが、実は人間の本能に係わる事象が実はもっとも人間関係の普遍的な部分なのであることを作者は綴っているのかもしれない。男と女、そこに社会が形成され、時代が動いていく。
正義が存在しつづけるための人間の生き方を問われているのかもしれない。
本書を読んでいる時に某メガバンクのシステム障害が発生して、ATMでの現金引き出しや、数十万件の振込み遅滞が発生していることが報道された。果たして、これが人災なのか単なる機械的な不備なのか。お金という実体を考える良い機会かもしれないと思った。


告発の虚塔
  • 江上剛
  • 幻冬舎
  • 1680円
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書評