農村再生 小田切徳美 岩波ブックレット 2009

限界集落と言う言葉は行政用語だと哲学者の内山節さんは話していた。
養老孟司さんは都市化あるいは脳化という文脈で自然から遠ざかる事に危惧を綴っていた。
著者の小田切氏(1959−)は食糧・農業と地方というベクトルの交点に農山村が位置するはずだと指摘し、その農山村をテーマとする議論が農業や食糧(自給率等も含め)ほど行われていないことに危機感を持っている。小田切氏は限界集落と言う言葉は社会学者が独自の学術用語として作り、それをマスコミが好んで使って一般用語化したという。
本書では種々な統計資料に基づき、中山間地域の「人」「土地」「むら」の空洞化とそれに伴う諸問題を論じて行く。また政策としての中山間地域等直接支払制度、集落支援制度等も紹介するとともに、共同体としての「むら」の活動例や成功例も紹介している。
ただ、本当の意味での農村再生(漁村も含めて問題ないと思う)は個人や小規模な共同体で成し得るものではなく、国家としてのビジョンが重要だと指摘する。確かに財政経済的な文脈での施策は最重要ビジョンではあろうが、やはり、日本人の生き方(生きがい)、その思想とも言うべきイデオロギー(観念)を子供のころから共同体や教育の場で話し合う事が大切ではないかとも感じた書である。


農山村再生  「限界集落」問題を超えて (岩波ブックレット)
農山村再生 「限界集落」問題を超えて (岩波ブックレット)
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