地元学からの出発 結城登美雄 農文協 2009

シリーズ地域の再生1

まったく無知な私は結城氏(1945-)を存じあげていなかった。本書を読む前に眺めた著者略歴で民俗研究家とあったので、古い民俗学的な道具等の収集解析なんかをされているのかなと思い読み始めた書である。
いたずらに格差を嘆き、都市とくらべて「ないものねだり」の愚痴をこぼすより、この土地を楽しく生きるための「あるもの探し」。それを結城氏はひさかに「地元学」と呼んでいると書く。

そして読んでいて、深く感動し、氏の活動の奥行きの広さを認識した。歩く巨人、宮本常一の志を受け継いでいる。そう、それは単なる民俗学的な研究分析ではなく、現場の可能性を信じ、利他的に行動する姿である。それが地元学であり地元力なのだろう。
本書では、疲弊した農村(疲弊の理由を氏は辛辣に机上労働の行政だと指摘する)のまさに持続可能な(これまで持続してきたのは農業や林業だけなのだから)形としての未来を描きだしている。特に「鳴子の米プロジェクト」は興味深い。また沖縄の「共同点」や各地の地産地消的な試み、若手の農業参入など、これでもかというくらい頑張る人の姿がある。
 何も無い村ではなく、大量には無い村なのだという指摘はまさに的を得ているし、実は多くの村は貨幣交換を伴わないで食生活が可能な事を聞き取り調査やアンケートで明らかにしてしまう。多くの場合、村や町の人々がそれに気が付いていないのだと。

新潟県山北町に関する文章の最後に氏は書く。
厳しい風土に生きる人びとの暮らしを愛してやまなかった宮本常一。その人に、そっと伝えてみたい。あなたが大切だと説いてまわった村の暮らしの基本は、この山北町のあちこちに、静かに、そして力強く生き続け、若者たちに受け継がれようとしていますよ、と。

このシリーズの第2巻は内山節さんである。


地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける (シリーズ地域の再生)
地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける (シリーズ地域の再生)
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