「森と水」の関係を解き明かす 蔵冶光一郎 全林協 2010

東大愛知演習林長をされている蔵冶さん(1965−)が考える日本の森林の未来のあるべき姿を多面的に考察している。
もっとも好感が持てたのは研究者としての真摯な態度だ。現在の科学で解明出来ること、解明出来ないことの限界を自覚し、科学が万能でないことを認識しながら、歴史からの経験論や地域文化を考証して森林を考えていく姿勢だ。

備忘録的に
日本の歴史史上初めて、日本の森に木材生産を期待する人は少数派になった。
森林水文学(すいもん学)、水に関する文学(ぶんがく)だと思っていたら、水の循環に関する学問なんですね(苦笑)
森林の水資源涵養機能は洪水緩和機能に比べて不確実性が高い。
源流集落の水枯れの原因;森林土壌の流出による平準化作用の低下と森林の蒸発作用の増大の両方を考慮しないといけない(人工林間伐が行われない現状)森林土壌はスポンジに例えるほど単純ではない。
緑のダム:森林の機能が現時点では科学的に不確実性が高いから、治水計画の数値に森林の機能分を盛り込まない。(結局堰堤やダムは作り続けられる??)
「見試し」(江戸時代のシステム、まず試してみて修正を加える、大熊孝さんも書籍で紹介していたと思う)の再評価の必要性。
ヒノキ林の方がスギ林よりも土壌流出が激しくなる(落葉が容易に分解するため)
地域シンクタンクの重要性:山梨県早川町の上流文化研究所等
流域市民と研究者ネットワークの重要性(研究者は科学者が技術者か)内山節さんの言葉として「専門家は素人の検証を受ける仕組みを持たなければ、専門家としては健全な仕事を成しえない」
1999年度からすべての市町村が市町村森林整備計画を樹立することになった。そのために森林施業計画の認定等の権限が知事から市町村長へ委譲された。
「自然とはそもそも矛盾に満ちたものであり、矛盾をなくすのではなく、矛盾と共存しうる人間の構想力、未来のありかたを見つけだすという新しい社会像の発見を目指すのが研究者」by内山節 蔵冶さんの座右の銘だそうだ。

石城 謙吉さんの苫小牧演習林の話(森林と人間―ある都市近郊林の物語 (岩波新書))やどろ亀先生(高橋 延清さん、東大演習林長(富良野)「いろいろな価値を生産する、豊かな森づくり」が目標だった)、森林生態学の四手井綱英さんの話などが出てこないのがちょっと寂しいと個人的には思いました。


第1章 森と水をめぐる知見の整理
 森と水に関する科学的知見―どこま で解明されたのか―/森林と水害/森林と水資源/森林と水質/森林の環境サービス取引)
第2章 科学的な解明・検証をする仕組み
  人々の認識と科学者の認識のギャップ―科学的に完全に把握できるのか―/管理の意思決定方法―完全には把握できないものの管理/修正する手法―見試し、 PDCAサイクル、順応的管理/森と水の機能回復を評価する やまぐち森林づくり県民税関連事業評価システムの挑戦/
第3章 科学的な解 明に向けた情報を集める仕組み―地域型の情報管理を目指して
 地域型の情報管理を目指して―地域内シンクタンクの可能性/地域型の情報管 理を目指して―森と水の源流館―/地域型の情報管理を目指して―多摩川源流大学/地域に根ざした学術の融合―流域圏学会の可能性/地域型の情報管理を目指 して―情報の共有手段としてのWeb―GIS/
第4章 連携による森林管理の合意形成
 流域市民と研究者との関係づくり /国県町・学・民が一体となって照葉樹林を復元する―宮崎・綾の取り組み/国有林の共同管理と治山ダム部分撤去―利根川源流・赤谷プロジェクトの挑戦/愛 知県豊田市の挑戦(1)―森づくり条例と100年の森づくり構想/愛知県豊田市の挑戦(2)―森づくり会議とは/水と生きる企業の森づくり サントリー天 然水株式会社 奥大山ブナの森工場
第5章 研究者のあるべき姿勢、関わり方
 現場と向き合う研究者の悩み/社会に役立つ 研究者とは
引用・参考文献



「森と水」の関係を解き明かす 現場からのメッセージ
「森と水」の関係を解き明かす 現場からのメッセージ
クチコミを見る