マタギ 田中康弘 判佝如2009-12-06

田中氏(1959−)が秋田の阿仁に通いつめて写し、綴ったマタギの世界。
狩猟という人間の最も基本的な生活文化が徐々にそして確実に消え去ろうとしている現在、その文化が消滅することが何を意味するのかが逆に浮き彫りにされてくる。生きるために食う。そしてそれは自然の恵みとして、森の恵みとしての人間の普遍の姿でもあるだろう。本書は熊狩り、ウサギ狩り、ジャガク(冬の川での漁)、岩魚釣り(漁の方が的確かな)、山菜や茸狩り等を通じてマタギの生活(生業ではなく主に副業あるいは文化として)を描きだしている。田中氏は書く「山は多くの恵みをもたらしてくれたが、マタギの命も簡単に奪い去られる。生きるために山に入り、死と向かい合った時にマタギは神を感じたのだろうか。私が思うに、マタギの精神世界の根本は死である。生きるための死である」
また、最後に田中氏は学術的なアプローチを行っていない理由として、先人達には及ばないし、学術的な興味がないと書かれる。しかしである。すでに本書が学術的意味を持っているのである。三角寛のサンカ研究の不備は指摘の通りであるが、けっしてマタギ学が成り立たない理由にはならないはずだ。山の民の歴史的背景や文化伝承の研究が我々日本人あるいはそれ以前の我々の先祖からの多くの恵みを含んでいるのではないだろうか。
根深誠さんも決して学者ではないが青森のマタギの村を書き綴っていたと思う。
田中氏の今後さらなる本分野での活躍を祈らずにはいられない。


マタギ 矛盾なき労働と食文化
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