頂き書籍

原題はHandbook of primate husbandry and welfare.なので、サルの飼育に関する専門書です。対象者は実験動物に係る方、動物行動学に係る方等でしょう。非常に広範な内容が丁寧に書かれていて、これからサルを取り扱われる方には良い本だと思います。私自身が長いことサル類を使った動物実験をしてきましたので筆者のイギリス(もっとも動物実験等に厳しい制約がある)や他の国の最新情報が分かり有用でした。そして特に重要な事はサルが好き好んでケージの中や飼育施設に居る訳ではないということです。その事はサルに係る全ての人が心に持ち続けなければいけないのでしょう。
もちろん、それはサルだけでなく全ての実験動物も同じです。昨今、研究と教育における動物の使用を削減する動きがあることも示されています。所謂3Rsです。Reduction:使用削減、Refinement:環境改善、Replacement:代替法の開発です。
また本書では、サルの飼育福祉だけでなく、サルの生息地における問題やサルの輸送(野生サルの運搬や研究施設間での輸送等)の問題まで実に丁寧に書かれています。そしてサル種による行動や生態の差異、その情報に基づく飼育管理方法で注意すべき点なども詳しく述べられています。
医学実験等のサルを使う場合は、出来れば麻酔をせずにサルが採血に応じるような環境を作り出すような取り組みが必要であると指摘します。通常はケタミン等で麻酔をする訳ですが、飼育者との良好な関係下で訓練すればサル自ら腕を出すようになることは知られています。日本のある施設で自分も見たことがあります。しかし全ての施設でそれが行われるようなるためにはかなりの時間と莫大な費用が掛かるのも現実です。出来うる限りの努力を研究者はしなければいけないと感じました。

一部医学分野での表記で訳が十分でないところがあります。p110の血清中性化試験はおそらく血清中和試験だと思います。またいくつかそのような訳がありました。
また、全編を通してですが、サル、ヒト以外のサル、モンキー等の表記が見られその使い分けが不明瞭です。Primate, non-human primate, monkey が原文で使い分けられているのか気になるところです。

サルを含む実験動物が人類と言うサルの一種に対していかに多くの犠牲を払い、ヒトの生存に貢献しているか真剣に考える良い機会になったことは言うまでもありません。
是非多くの実験動物学や行動学に携わる人々に読んでいただきたいと思います。

サルの福祉―飼育ハンドブック