献本

副題:失われた五度の機会

ゴルバチョフ、エリティン、プーチンの各大統領時代における対露関係の中での平和条約締結と北方領土返還交渉のまさに当事者として、また鈴木宗男氏、佐藤優氏の所謂国策調査逮捕事件のある意味共犯者とも名指しされた東郷氏の回顧録とでも言える書である。
当然ながら公務員としての守秘義務と外交機密と言う文脈の中で語れない部分も多いのであろうが、歴史的な動きは非常に生き生きと書かれているのだと感じる。
東郷氏の生い立ちはまさにサラブレッドと称されるほどの名家であり、外交官僚家系と言っても差し支えないである。それゆえか、文章自体は非常に大人しく、佐藤氏の様な過激さはないし、また特定個人への非難もない。逆にそのために、外交舞台での人間関係のドロドロさも、パワーポリティクスとしての生臭さが表れていないようにも思う。(佐藤氏自身は解説の中で、鳥瞰図的な記述だと言っています)
いずれにしても小泉政権誕生後の進展無き北方領土問題やそれに付随するであろう対露外交の低迷の理由は何か?それは単にロシアスクールと言われる外務官僚とか外務省主流派と言われるアメリカスクール官僚との確執なのか。あるいはそれ以上に大きな何かなのか?東郷氏がソ連課長就任以降に北方領土問題で仕えた歴代の首相は中曽根、宮澤、橋本、小渕、森であるが、領土問題が動こうとしていた時代は橋本、小渕、森のようである。その内の橋本、小渕両氏は急逝されていて当時の首脳会談での秘密交渉などの内容は外交文書の公開を待つしかなく、回顧録等しての心象風景を知るすべもなくなっている。

四島一括返還と四島返還との大きな違いは無い事(若干の時差を生じる返還となるが)が多くの国民に理解されるように東郷氏は願っているのであると感じる。

東郷氏も、解説の項を書いている佐藤氏も東郷氏のオランダ大使辞職後の外国への渡航は「亡命」だと書いているが、もし日本に居たならば佐藤氏や鈴木氏同様に逮捕されたのだろうか? 歴史が今後明らかにしていくのであろう。

過去に読んだ佐藤氏等の著作に関する読書ノートを下記にしめしました。

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて 佐藤優 新潮社2005

「鈴木宗男事件」で背任と偽計業務妨害の容疑により逮捕された。512日間に及ぶ拘置、独房生活の末、今年2月の第1審で下された判決は「懲役2年6カ月、執行猶予4年」。著者は即日控訴の手続きを取った。(アマゾンより)

400ページに及ぶ本書は読み応えがある。国策捜査と言う言葉が一般化され先の堀江さんや村上さんの事件でも国策捜査との一部報道があったように思う。容 疑を認めないために500日以上も独房に拘留される現実(敢えて保釈請求を自ら遅らせたようですが)は普通の人間には耐えられない事でしょう。
著者の佐藤さんが言うように20数年後に明かされる外交文書(北方領土返還交渉や平和条約締結問題)が今回の事件を歴史的に検証してくれるのでしょう。
塀の中はかなり平和で民主主義なのだと思いました(検察官の取調べを除くと)

北方領土「特命交渉」 鈴木 宗男 佐藤 優  講談社 2006

鈴木さんと佐藤さんの対談形式で、北方領土返還交渉を政治、外交のコンテクストの中で語っている(暴露している)。そこには、まさにドロドロした人間関 係、北方領土ビジネスと言う利権、中央アジア問題が北方領土返還に鍵となる可能性等が綴られている。もちろん、ご両人の言い分を全て信じる事を良しとはし ないが、通常一般国民が知りえない外交の流れの記載は間違いがないように思う。また、ここまで特定の外務官僚や袴田教授を非難するにはそれなりの覚悟が あっての事だと思う。守秘義務がある中で、語りつくせない部分はあるのだろうが、国策捜査という「時代のけじめ」のワナに掛かってしまったご両人の今後の 活躍を祈りたい。

自壊する帝国 佐藤優 新潮社 2006

「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」で国策調査を一躍有名にした佐藤さんのソ連崩壊前後のおそらくはご自分の日記を元に外交官としての活動を書かれている。 また神学者としての背景をお持ちの佐藤さんがいかにモスクワでアカデミックの中でも人脈を広げていたかが分かります。うがった見方をすれば、ここに書かれている事が全部本当なのか?一部はフィクションなのか?それとも外交機密として書けない事の方が多いのか?など気になる点も多い。さらに、友好を深め、接 待を通じて情報を仕入れる場面が多々出てきますが(ゴルビーは生きているといち早くその情報を仕入れた事は有名)、日本側の情報は出さないのか?なども気 になります。
外交にしろ商売にしろ研究にしろ正しい情報が成功への鍵だと言う事はわかります。また佐藤氏の日露関係を良くしようとしていただろうという意気込みは十分伝わってきます。
是非とも北方領土問題に関しても書いていただきたいと思います。
#拘留直前のお姿(太り気味)はこの本に出てくるモスクワ等でのグルメ接待のせいだと思うのは読み過ぎでしょうか?(笑)


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